文章を書くことを仕事にしたことで、大企業の社長や起業家、科学者など、いわゆる社会的に成功した方々にたくさん取材する機会を得てきました。その数は、3000人を超えています。誰もが知る有名な会社の社長も少なくなく、「こんな機会はない」と本来のインタビュー項目になかったこともよく聞かせてもらいました。インタビューで会話が少しこなれてきているところで、こんな質問を投げかけるのです。
「どうして、この会社に入られたのですか?」
数千人、数万人、中には数十万人の従業員を持つ会社の経営者、あるいは企業を渡り歩いて社長になった人となれば、仕事キャリアに成功した人、と言って過言ではないと思います。仕事選び、会社選びに成功した人、とも言えるでしょう。ところが、そんな人たちの「仕事選び、会社選び」は、なんともびっくりするものだったのです。

面接官はあなたのどこを見ているのか?Photo: Adobe Stock

面接では素の自分をさらけ出したほうがいい

 思い込みを排除し、五感を使って偶然に身を委ねることは、採用の面接でもプラスに働くと私は感じています。教科書的な志望動機は語れないかもしれない。しかし、素直にここに来た理由を伝えればいいと思うのです。

 なんとなく、××が気になった。たまたま書店で出会った本が、この会社の業界に関する本だった。友人が受けることを熱心に勧めてくれた……。偶然とはいえ、何か理由があってここに来ているわけですから、それを正直に言えばいい。

 教科書的、優等生的な志望動機を、面接官はどれだけ求めているのか、と私などは感じてしまいます。学生は、ほとんど世の中を知らないことを面接官は知っています。むしろ、大層で立派な志望動機を語られるほうが、よほど違和感を持つのでは、とすら思ってしまいます。

「やりたい仕事を言わなければならない」と考えている人も多いようですが、実際のところ、本当の仕事が完全にわかるはずもない。わかったようなことを言うほうが、むしろネガティブな気がします。

 こんな仕事にちょっと興味があるけれど、会社が委ねてくれる仕事に全力でトライしてみたい。そんな返答でいいのではないでしょうか。会社とて、「やりたい仕事」が完全に決まっている社員ばかりでは困るはずです。

 実際、先にも触れているように、行くつもりもなかったところに内定をもらってしまった、という人がいます。彼らが教科書的な志望動機を語れたとは思えません。おそらく、素直にそこに行くことになる理由を語ったのだと思います。

 私は現在は50代ですが、大企業に勤めるかつての友人たちが、30代、40代で面接官を務めていた頃、よく話を聞いていました。いったい、どうやって採用面接で人を選んでいるのか、と。それは、私の想像とよく似ていました。

 もちろん、書いてくれたエントリーシートなどには事前に目を通す。面接でも、人事部から渡された想定質問をいくつか投げかけていく。学生の話を、頑張って聞こうとする。緊張している学生には、和らげるような空気を作る。

 しかし、実は合否のほとんどは、ドアを開けて部屋に入って来て、椅子に座って少し会話が始まった頃にはほとんど決まっているのだと語っていました。第一印象と少し話した雰囲気がほとんどのジャッジの決め手なのです。

 というのも、とりわけ現場で働く面接官が考えているのは、「一緒に働きたいか」「自分の部下にしたいか」だからです。一緒に仕事をして、心地良く働けるかどうか。それこそを、見ているのです。そこで、小難しい話をされても困るのです。

 極端な話をすれば、相性です。自分と、あるいは自分の会社と相性が合うかどうかを確かめているのです。しかも、短時間で直感的に(つまり、誰が面接官か、で運命が決まってしまうところがあるのは間違いありません)。

 むしろやってはいけないのは、等身大の自分を見せないことです。それでは、相性が測れない。ましてや背伸びをしてしまっては、ミスマッチも起こりかねない。もっとも、背伸びはすぐにわかるようではありますが(むしろネガティブな評価になるようです)。

 つまりは、素の自分をさらけだしたほうがいい、ということです。そのほうが、本当の姿を見てもらえるし、面接官にも受け入れられやすい。自然体のほうが、好印象にもつながる可能性は高いと思うのです。

※本記事は『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』上阪 徹(ダイヤモンド社)より、抜粋して構成したものです。