「無自覚な加害」を
どう受け止めるべきか
――新刊のタイトルはなぜ『ブルーマリッジ』なのでしょうか。
元の言葉である “マリッジブルー”がこれだけ浸透しているのだから、『ブルーマリッジ』なら1発で覚えてくれるんじゃないか、という期待が最初にありました。
それと、「ブルー」と「マリッジ」を逆転させただけなのに、こんなにも意味に広がりを感じる言葉は珍しいと思ってます。
マリッジブルーは「結婚前夜の憂鬱」という意味ですが、逆転させたら「結婚後の憂鬱」になります。『ブルーマリッジ』はまさに憂鬱な結婚の話でもあるし、ブルーからイメージできる独特な雰囲気もあって、このタイトルはとても気に入っています。
ほかにも何十案もタイトル候補があったのですが、悩みに悩んで、最後に『ブルーマリッジ』が出た途端に、最初からこれしかなかったねと思えるような収まりの良さを感じたので、もう疑いなく『ブルーマリッジ』に決定しました。
カツセマサヒコさん最新刊『ブルーマリッジ』(新潮社)発売中! ――出逢って8年。付き合って6年。同棲を始めて2年。もう僕らのあいだに、新鮮な出来事はほとんど残されていない。 いつものスペインバルで年上の彼女にプロポーズした青年・雨宮守。長年連れ添った妻に離婚したいと告げられた中年・土方剛。世代は離れ、生き方も価値観も正反対だったふたりの人生は、社内のある疑惑をきっかけに変化し始める。 夫婦であること、家族であること、働くこと、生活すること、傷つけること、生きること。 過去からも未来からも逃れることのできない世の中で、それでも光を求めて彷徨う者たちの物語。
――結婚だけでなく、様々なテーマが描かれているなと思いました。この作品を書こうと思われたきっかけは。
明確なきっかけはないですが、7〜8年くらい前からジェンダーやフェミニズムに関連する本を読む機会が増えて、そうした知識をインストールしていくなかで、自分の過去の言動を省みることも増えていきました。
10代、20代の頃の自分の言動があまりにひどかったり、Webライターとして書いた記事の内容があまりに差別的だったりして、今になってそのことを強く後悔するんです。
でも今さらそのことを謝りに行くにしても、被害者はどこにいるかもわからなかったり、そもそも勝手に謝ったとしても、それってただ許されたいと思ってるだけで、加害者の傲慢にすぎないっていう感覚があって。
じゃあ、この加害していた事実をどう受け止めながら未来を生きればいいんだろう、みたいなことを考える機会が本当に増えてたんですよ。それで、これは一度、物語にしないと先に進めないというか……書いても答えは出ないですし、実際今でも迷子のままなんですけど、一回書いてみようって思ったのがきっかけでした。
それで「無自覚な加害」を社会のマジョリティーである男性が背負った時にどうなっていくかを描いた物語ができました。
――読み進めていくうちに、ある人物の「無自覚な加害」が発覚するシーンは衝撃的でした!
嬉しいです。絶対的な正義って存在しないと思ってるんですよ。人って常に揺らいでいるものなので、良いとこも悪いとこもある。良いことだけする日もあれば悪い事しちゃった日もあるっていうのが絶対にあるので、それを書こうと思っていました。
この物語の登場人物と同じように、誰かをわずかにでも傷つけてしまった過去を持つ人には、ぜひ読んでもらいたいと思ってます。







