なぜならそのイライラの原因は、今その人の周りで起きていることと関係ないからである。まさに「記憶に凍結された不愉快」である。その凍結を溶かしていくのが、高齢者の生産性である。

 そのためには無理に「高齢は楽しい」などと自分に言い聞かせてもあまり効果がない。

 しみじみと自分の人生を振り返って、「あんな人、こんな人」を思い出すことが有効である。

 人は離れ小島で屈辱を体験しているわけではない。そのときの人間関係の中で屈辱を体験したのである。

 その体験の意味は、その人のそのときの人間関係で決められる。

 自分の人生でかかわり合った「あんな人、こんな人」を思い出して「あの人は、卑怯な人だったなあ」と理解することが、「記憶に凍結されたマイナスの感情」を溶かすことなのである。

「あんな卑怯な人の態度で、自分はあんなにまで、長いこと苦しみ続けたんだ、信じられないな」、そう気がつけば、厚い氷が少しずつでも溶け出す。

 そして「なんであんな卑怯な人の態度で、自分はあんなに苦しんだのだろう?」と考えれば自分も見えてくる。

 それが高齢者の生産性である。お金を稼いでくることだけが生産性ではない。

 人は、どのような人間関係で成長したかによって生きる不安や恐怖感は違う。生きる辛さは違う。

 今の不安や恐怖感を消すためには、過去の自分の人間関係を考え、自己分析することが決定的に重要である。

記憶に凍結された
マイナスの感情を溶かす

 幼児期のトラウマも今の自分に影響している。

 父親が怒って石を地面に投げつけた。食卓をひっくりかえした。道の途中で会ったらにらみつけて過ぎて行った。幼い自分は無視された。

 母親が、火のついた棒で娘を追いかけたときの恐ろしい光景。

 両親の喧嘩。妻が離婚騒動のときに夫に「5千万円くれ。そしたら別れてやる」と叫んだときの激怒した顔。

 大人になって何でもない刺激がその通路を通ってしまう。すると単なる注意が拒絶に受け取れる。

 このように強力な感情的記憶もある。