子どもの可能性を伸ばすために、何か習い事をさせたいと考える親は多い。しかし、何を習うのがベストなのだろうか。10年連続で算数オリンピック入賞者を輩出している彦根市発の知る人ぞ知る塾「りんご塾」。その塾長である田邉亨氏は習い事について、「本人が『行く』と言ったものは全部行ってみてください」と提案する。それはなぜか。本記事では、田邉氏の初著書『「算数力」は小3までに育てなさい』の内容をもとにその理由を解説する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)
重要なのは「熱中体験」を得ること
あなたは子どもの頃、何か「マイブーム」があっただろうか?
周囲の子どもたちを見ていても、それぞれに「ハマる」ものが違うのでなかなか面白い。
戦隊モノに出てくるヒーローや怪獣の名前を全部言える子、ひたすらお絵描きをしている子、野球命の子……。実に個性豊かだ。
親はつい、子どもの将来に役立つことをさせたくなるが、田邉氏は「マイブームがたとえ漫画であっても、幼少期はそれでいい」と語る。「むしろ、それがいい」とまで言う。
田邉氏はその理由を次のように述べる。
「何かに熱中する」体験を得ることで、一体何が変わるというのだろうか?
「熱中体験」が育む、主体的に取り組む姿勢
田邉氏は滋賀県彦根市にある「りんご塾」で、子どもの「算数力」を伸ばすことに取り組んでいる。
「りんご塾」が大切にしているのは、計算問題を速く解く力を伸ばすようなことではない。
思考を巡らせないと解けない「頭を使う計算」や、パズルを解くときのような「楽しさ」を体験させることを重視している。
それらによって育まれるのが「算数力」という。
田邉氏は、算数力を次のように定義する。
田邉氏は、この算数力を身に付けることを勧めているが、別に幼少期にとりたてて算数が好きでなくても構わないという。
それよりも重要なのは「何かに没頭すること」と主張する。
なぜなら「熱中体験がある子は、算数の面白さに気付いたとき、今度は算数がマイブームになる」からだ。
ここで大事なのは、何をするかよりも「自分の好きなことに主体的に取り組む姿勢」であると田邉氏は語る。
確かに、好きなものがあると、そのことについて調べたり、もっと他のやり方はないかと試してみたりと能動的な動きが生まれる。この経験が、その後の人生にも役に立つのだ。
子どもの才能を開花させるのは、親の見極め力
そして、田邉氏は「子どもがマイブームを持ち才能を開花させるためには親のアシストが必要」とアドバイスする。
例えば、戦隊モノのアニメに夢中になっている子どもがいるとする。
横で見ている大人は「ヒーローに憧れているのかなぁ」と思うかもしれない。
しかし、その子が必ずしもヒーローが好きとは限らない。
ある家庭では、娘さんが幼稚園生のときに、セリフを丸暗記するほどディズニー映画にハマっていた。
親御さんは「大人でも簡単にセリフまで覚えられないのに、何かの才能があるのかな?」と思いつつも好きにさせていたら、次第に熱が冷めていき、学年が進むにつれて何かにハマるとか集中力を見せるといったことは、全くなくなってしまったのだそうだ。
親御さんは、「あのときに何か手を打っていたら、もっと才能が花開いていたかもしれませんね……」と後悔しているという。
子どもの「マイブーム」の裏にある真の興味は何か。それを見極めるのはなかなか難しそうだ。
習い事は長く続けなくてもいい
今のところ、子どもにマイブームらしいものがないという場合、なんでもいいから習い事をさせてみることを田邉氏は推奨している。
入会金は無駄になってもいい!
数ヵ月分の月謝も払い損になってもいい!
それくらいの気持ちでいきましょう。(中略)
可能性が無限だからこそ、打つ玉は多くなります。(P.66)
そして、「3ヵ月ぐらいやってみて、合わない場合は、サクッと次に行きましょう!」と田邉氏。確かに、やってみなければわからない以上、いろいろチャレンジしてみるしかない。
もしあなたが子どもの習い事に迷っているのならば、将来役に立つかよりも「子どもが熱中できるかどうか」を指針にしてみてほしい。
その熱中こそが、子どもの才能が花開く良いきっかけになるかもしれないのだ。