世界のビジネスエリートの間では、いくら稼いでいる、どんな贅沢品を持っている、よりも尊敬されるのが「美食」の教養である。単に、高級な店に行けばいいわけではない。料理の背後にある歴史や国の文化、食材の知識、一流シェフを知っていることが最強のビジネスツールになる。そこで本連載では、『美食の教養』の著者であり、イェール大を卒業後、世界127カ国・地域を食べ歩く浜田岳文氏に、食の世界が広がるエピソードを教えてもらう。

【実は役に立たない?】レストランの口コミで、がっかりしないために知っておきたいことPhoto: Adobe Stock

参考にならない? 口コミの盲点

 いうまでもなく、口コミは非常に強力です。僕自身、国内外の食べ歩き仲間からの情報に基づいて新しいお店を知り、食べに行くことは多いです。リピートするお店を除くと、新店開拓の半分強は口コミによるものではないかと思います。

 ただ、口コミを上手く活用するには、いくつか留意点があります。

 まず、自分と方向性が合う人の口コミかどうか。自分が文化としての「美味しい」を求めているのに、本能的な「うまい」を求めて食べ歩いている人の情報は、必ずしも参考になりません。イノベーティブな料理が好きな人と、伝統料理が好きな人でも、好みが違います。

 また、金銭感覚も同じです。お金があるなしにかかわらず、最高の食事体験には1食5万円払ってもいいという人もいれば、どれだけ素晴らしい食事でも2万円以上はあり得ないという人(数年前、ある大手ホテルグループの社長の口から聞いて、驚愕しました)もいます。

 次に、口コミをフェイスブックで募集する際によくあることなのですが、古くて役に立たない情報を教えてくる人がいかに多いことか。

 たとえば、コロナ前とコロナ後では、世界のレストランシーンは大きく変わりました。なので、5年前に行った、という情報は役に立たない可能性がある。また、たまたま出会ったお店をノスタルジーだけでおすすめしてくる人。これも、誰にとっても行く価値のある店なのかどうかを見極める必要があります。

地元民の情報はよく見極める

 地元の人の口コミも要注意です。よく、地方でタクシーに乗ったときに、運転手に聞くと地元民しか知らない良い店に出会える、という話を聞くことがあります。お店の絶対数が少なければ、そういう場合もあるでしょう。ただ、そのタクシーの運転手が食に関して見識が広いとは限りません。

 通っている店となると、高くても美味しい店ではなく、安くてまあまあ美味しい気軽な店であることも多い。わざわざその土地を訪れている人と、そこに住んでいる人では、当然ながら金銭感覚が違うのです。

 ある地方の人と地元の鮨屋の話になったんですが、いろんな名前が出る中で、その街といえばここ、という有名店が出てきません。こちらから聞いてみると、「ああ、そこね……昔は毎月のように通ってたけど、今はもう行かなくていいと思うよ」と口を濁すのです。

 突っ込んでみると、県外のお客さんが増えて予約が取れなくなったり値段が上がったりしたので、最近行っていないとのこと。予約が取れないといっても、実際数ヵ月後では取れる。ただ、昔のように予約なしでふらっと入るのは無理になってしまった。でも数ヵ月先の予約なんて取りたくない(そういう習慣がない)、ということのようです。

 自分が行けなくなったことが悔しくて、行かなくていいといってしまう。似たような話は地方で本当に多いんですが、地方で頑張っているお店は大体その同じ地方の人が足を引っ張っている、という構図です。

 これは地方だけでなく海外でも顕著ですが、わざわざ遠方からお客さんが集まるようなお店は、地元の人は行ったことがない、もしくは知らないことすら多い。

 なので、本当に役に立つのは、他の地方も含め幅広く食べ歩いていて、地元のお店を客観視できている人のアドバイスのみです。

(本稿は書籍『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』より一部を抜粋・編集したものです)

浜田岳文(はまだ・たけふみ)
1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国・イェール大学卒業(政治学専攻)。大学在学中、学生寮のまずい食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するためフランス・パリに留学。南極から北朝鮮まで、世界約127カ国・地域を踏破。一年の5ヵ月を海外、3ヵ月を東京、4ヵ月を地方で食べ歩く。2017年度「世界のベストレストラン50」全50軒を踏破。「OAD世界のトップレストラン(OAD Top Restaurants)」のレビュアーランキングでは2018年度から6年連続第1位にランクイン。国内のみならず、世界のさまざまなジャンルのトップシェフと交流を持ち、インターネットや雑誌など国内外のメディアで食や旅に関する情報を発信中。株式会社アクセス・オール・エリアの代表としては、エンターテインメントや食の領域で数社のアドバイザーを務めつつ、食関連スタートアップへの出資も行っている。