言い争ってナンボでしょ。お遊びじゃないんだから
困ってしまった私は、どちらかの業者をプロジェクトから外すことを考えました。焦燥感から編み出した苦肉の策です。上司のジュリエットにそのことを伝えると、「ちょっと待った!」がかかりました。
「会議の度に言い争いが激しくて、雰囲気険悪なんです。ちっとも準備が進みません」
そう説明すると、上司は呆れたように言いました。
「言い争ってナンボでしょ。お遊びじゃないんだから」
「でも、このままではイベントに支障が出るかと……」
食い下がってみると、上司はいつになく厳しい口調で言いました。
「とことん言い合って最適な結論を出すのが彼らの仕事よ。それがプロってもんよ。あなたの仕事はそれを阻止することじゃなくて、誘導することでしょ」
「言い合いはとことんすべし」。このことをいち早く学んだことは、私にとって大きな収穫でした。
自分が正しいと思ったら、体裁を気にせず、相手に遠慮することもなく、こちらも思ったことを包み隠さずに言うこと
正しいと思ったら、クライアントだろうが、部下だろうが、真っ向から批判してくるのがフランス人です。批判されて気分のいい人はいません。けれども、それをかわしたり、逃げたりしていたのでは問題解決につながりません。批判を受け止めることができるか、できないか。ここが正念場なのです。
まずはきちんと相手の言い分を聞き入れること。それでも自分が正しいと思ったら、体裁を気にせず、相手に遠慮することもなく、こちらも思ったことを包み隠さずに言うこと。そしてなぜそう思うのか、きちんと説明し、双方が納得するまで心を割って話し合うこと。
日本という国に生まれ育った私達は、その場の空気を読んで相手の意図を汲み取ることが得意です。けれども、一歩外に出れば、空気を読むどころか、ガン無視する人だっています。物の見方、考え方、そして時には価値観すら違う人間が衝突を避けていたら、一緒に仕事をすることはできません。
シャンゼリゼ店のオープニング・イベントは大成功に終わりました。息をつく暇もない当日、外注業者達の連携プレイは見事なものでした。衝突しながらも、決して譲歩せず、最良の結果を生み出していく。パリジェンヌ流の正しい仕事の進め方を学ぶことが出来た、私にとっては忘れがたいイベントです。
※本稿は『パリジェンヌはすっぴんがお好き』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。