大学でとった資格が、サイトの資格記述覧に書いても全然受け入れられないサイトが多いというのです。たとえば自治体の教員採用試験に受からなくても、大学で教育実習は受けたので私学なら授業はできるといったことを証明する資格は、国家資格ではないのでオミットされてしまいます。つまり、大学が独自で認定している資格は信用できないというのが、転職サイトの基本なのです。

大学時代に資格をとっても
デジタル転職には通用しない

 案外、こうしたことを知らず、卒業後にまったく役に立たない資格取得に必死になっている先生や学生がいます。しかし、これは実社会を見ればよくわかることなのです。大学で得た知識など、世の中ではほとんど使えないというのは社会を経験したことがある人間ならわかることです。

 しかし、今の大学に通う学生のご両親、特に母親には、この認識が薄い人が多い。男女雇用機会均等法はできたものの、育休や産休の制度がしっかりしていなかったので、出産を機に泣く泣くキャリアを捨てて寿退社。その後の再就職では資格のことばかり聞かれたため、「女性には資格が大事だ」という意識が強い人が多いのです。親として子どもに資格をとるよう厳しく接するケースが多く、大学側も資格を前面に出すほうが親の受けがいいと思って、宣伝しています。

 しかし、今は大学の新卒入社の多くは総合職で、いわゆる事務職、一般職的な仕事は極端に減りました。一般職はおおむね派遣社員に代替されているのです。ですから、総合職としてどれだけのことができるか。統率力や発想力、世の中への基礎知識など、将来の管理職候補としての資質が、現在の採用試験では問われます。

 ただの「資格バカ」では、採用試験に通りません。寿退社がなくなった以上、会社にとってビジネスパースンは「一人一生4億円」の買い物です。大学でガリガリ勉強して資格なんて取ってきても、役に立たないことは百も承知。デジタル転職では、極めて事務的に、冷酷にそのあたりが判断されます。大学生も親御さんも、大きな変化が起きていることに気付くべきでしょう。

 そして、転職サイトの関係者のみなさん。今は求人難なので、こんないい加減な連絡をしていても、人はくるでしょう。しかし、その人が特殊な経験、大きな仕事を成就したかどうかは、本当にその業界を詳しく知り、突っ込んだ面接をしない限り理解できません。デジタルツールに頼って人を仕入れるだけでは、人材の定着率が悪く、たぶん自社の評判も悪くなって、いずれ淘汰されます。

 仕事探しに真剣じゃない私のような人間の「趣味」まで面倒みていただいたのに、文句ばかりで申し訳ありません。一方で、私は自分の教え子の転職を、ちゃんと転職サイトで何人も成功させています。ですから、転職サイトを否定はしません。若手がコソコソ休暇を取って、イヤな上司から逃れるために中途採用面接に逃げていた時代から比べると、これは革命的なビジネスモデルです。だからこそ、より人間力を発揮できる転職活動を支援して欲しいのです。

 Z世代は何でもデジタルで済ませたがりますが、残念ながら、それだけで一生わたっていけるような世の中には絶対ならないと、私は思っています。

(元週刊文春・月刊文芸春秋編集長 木俣正剛)