合言葉は「仕方ない」

 それにしても、女は一生、女性ホルモンによる「気分」にふりまわされないといけないのかと考えると、辟易する。

 私は妊娠も出産も未経験ではあるが、それらを経験した女性たちからはホルモンバランスが崩れて精神的に不安定になったという話もしょっちゅう聞く。

 どのような道を選択しようが女に生まれただけで生理や更年期がもたらす心身の不調に振り回されなければいけないなんて、ときどき理不尽だとも思う。

 また閉経により「性欲」が無くなったり、増幅したりする話も耳にする。性への関心がなくなって夫とレスになり浮気をされたとか、逆に増幅したけれど夫のほうがその気にならず、家庭の外で出会いを探してトラブルになったりだとか。

 私個人は作家として性的なことを書く仕事をときどきしているので、性への興味が無くなったら、仕事ができなくなるんじゃないかという不安もある。

 だけどそうなったらそうなったで仕方がない。

 こうやって、たぶん死ぬまで、女性の身体に生まれてきたこととつきあっていくしかないのだろう。

 閉経したらしたで、様々な不調が襲ってくると聞くし、いずれにせよ加齢からは逃れようがない。

 どんなに若作りしようが、人は若返りはしない。

 老いからは、目を背けられない。

 じゃあどうしたらいいのかと考えはするが、「仕方ない」と諦めるしかないのだ。

 でもその「諦め」は決してマイナスではなく、自分の心身を大切に守っていくために必要な「前向きな諦め」なのだ。

 理解してくれなどと他人に期待をしないこと。

 不調がどうしようもなくなったら、ちゃんと医者に頼ること。

 自分ではどうにもならないことだからと、老いを受け入れること。

「いつまでも若いつもり」でなんて、いないこと。

 そんな「前向きな諦め」と共に更年期を過ごし、閉経を待っている。

花房観音(はなぶさ・かんのん)
小説家、バスガイド
1971年、兵庫県豊岡市出身、現在京都在住。京都女子大学中退後、さまざまな職を経て、2010年に第1回団鬼六賞大賞を『花祀り』にて受賞。性愛、ホラー、ミステリー、怪談、時代小説等を著書多数。ミステリー作家・山村美紗の謎の生涯を追った『京都に女王と呼ばれた作家がいた 山村美紗とふたりの男』等、ノンフィクション作品も執筆。2022年に心不全にて緊急搬送された経験をもとに描かれたエッセイ『シニカケ日記』も話題に。