政府が進める自治体ITのクラウド化、ガバメントクラウド。その事業者としてデジタル庁から指定されたのは、米国のアマゾン ウェブ サービス(AWS)、マイクロソフト、グーグル、オラクルと外資系大手ばかりだったが、昨年日本企業として初めて指定を受けたのがさくらインターネットだ。大手ITベンダーに先行して入札を勝ち取ることができた秘策とは?そして外資系が圧倒的に強いクラウドの世界で、日本企業として何をすべきなのか。特集『DX180社図鑑』(全31回)の#14では、創業社長である田中邦裕氏にその思いの丈を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
国産クラウドベンダーとしての唯一無二の価値は
日本の顧客に完全に合わせた開発ができること
――ソフトバンクやインターネットイニシアティブなど、大手競合を退けて日本企業としてただ一社ガバメントクラウド事業者に選ばれました。理由をどうみていますか。
まずは、自社で全ての開発を行っているということでしょう。当社はクラウド提供を13年前から行っておりますし、話題になった生成AI用のGPU(画像処理装置)クラウドも8年前から事業を開始し、すでに利益を上げています。国内の競合企業の多くは、開発を外注しているなどということがあり、これらは一朝一夕で達成できるものではない。
経済産業省の半導体・デジタル産業戦略検討会議にも何回か出席して、国内にクラウドを担える会社などない、という議論に異を挟ませていただいたこともありました。昨年は自民党本部に他の国内のITベンダーと共に呼ばれて、明確に「クラウドインフラを担う会社になりたいと思うし、まだ力は足りないけどしっかり企業体力を蓄えたい」という宣言もしました。自分たちで作ると明言した会社はどうやら他になかったようです。
ただ、入札で実際に自分たちだけが選ばれる、ということは想像もしていなくて、そこはかなりのサプライズでした。当社だけではなく、日本のベンダーがもう1社2社はやっぱり出てくるべきだと思いますが、自社で全ての開発が行えてデリバリーができる体制をわれわれ以上に作るのは難しいのかもしれません。
――アマゾン ウェブ サービス(AWS)や米マイクロソフトなど、海外大手のクラウドベンダーとの差別化要因はどこにありますか。
海外ベンダーは、サービスを組み合わせると、自由にプログラムが作れるという機能を提供しており、われわれはそこでは負けています。ただ、ガバクラでほんとうにそこまでの機能が求められているのか。ベンダー独自の機能をたくさん使ってしまうと、のちのちベンダーを代えられない「クラウドロックイン」が起こってしまいます。
ガバクラの場合、サーバー機能がシンプルにあればいいし、むしろネットワークの機能など、レイヤーの下層部分で、日本の要件を取り入れることが極めて重要です。ただ、グローバルなベンダーの場合日本の事情に完全に適応した形で開発を行うことは難しいでしょう。さくらインターネットであればこれが実現できます。唯一無二の価値だと思います。
先行する自治体の8割がAWSを選択しているといわれますが、それは千以上の自治体のうち数十自治体しか指していない。最初はAWSと米グーグルしか事業者がいなかったわけですし。後発組のわれわれや日本オラクル、マイクロソフトも含めた中から、選んでいただけるよう努力すればいいだけだと思っています。まだ勝負はこれからです。
日本企業として唯一ガバクラ事業者に選定されたさくらインターネット。田中社長は外資企業が席巻する日本のクラウド市場についても危機感を抱く。なぜ今「国産クラウド企業」が重要なのか。次ページで詳しく見ていこう。