中国ではなぜ、
食品安全問題がくり返されるのか
今回挙げた話題は、氷山の一角に過ぎない。こうした例を挙げるときりがない。中国では、なぜ、食品安全問題がなくならないのだろうか。
専門家は、政府の管理監督の不十分さ、問題が発覚しても刑罰が軽いこと、企業のモラルの欠如、競争が厳しすぎることによる業界の疲弊、時間や労力を節約するために中間工程を省くことの常態化などを指摘する。
さらに実はもう一つ、根深い問題がある。中国には、中国共産党の高級幹部たちに安全な食品を提供する「特別供給制度(特供)」という仕組みがあり、指導者たちは安全な食品を食べているのだ。この制度は1949年に中華人民共和国が成立した直後に始まり、現在も続いている。特供の専用農場や工場があり、食品の生産から加工、配送まで、すべて専用のルートで、厳格な管理下で行われている。こうして、特権階級の人たちは一般の国民とは別に特別供給の食品を食べているので、国内でどんなに深刻な問題が起ころうとも、他人ごとと思って真剣に解決しないのだ。国民は皆この制度を知っているが、選挙がない中国では、この制度を変えたりなくしたりすることはできない。
中国は現在、世界第二位の経済大国であり、デジタル分野などでは革新的なイノベーションが起きている。これまでの食品安全問題に答え、二次元コードを読み取ると食品の産地や検査についての情報が分かる消費者用のシステムも出てきている。しかし、今回のような混合油問題は、こうした仕組みがあっても防ぎようがない。
中国には「民以食為天」ということわざがあり、食べることを重視する伝統がある。それだけに、安心・安全な食品への関心は強い。最近、海外へ移住する中国人が増えているということは、日本でも報じられているが、「安全な食品を求めるため」というのも大きな理由の一つとなっている。
SNS上では、「口にするものほど大事なことはない。2024年の新しい時代に、なぜ、米や油、肉といった食品の安全を保証することがこんなにも難しいのか」「我々は一生、健康を害する正体不明な食品と付き合って行かなければならないのか」といった投稿を多く見かける。中国の食品安全問題は、深刻な社会不安につながりかねない。こうした庶民の切実な声が、国にしっかりと届くことを願うばかりだ。