「ほんのちょっとの工夫で、お客様の記憶に残ることができます」
そう語るのはアメリカン・エキスプレスの元営業である福島靖さん。世界的ホテルチェーンのリッツ・カールトンを経て、31歳でアメックスの法人営業になるも、当初は成績最下位に。そこで、リッツ・カールトンで磨いた「目の前の人の記憶に残る技術」を応用した独自の手法を実践したことで、わずか1年で紹介数が激増。社内で表彰されるほどの成績を出しました。
その福島さんの初の著書が『記憶に残る人になる』。ガツガツせずに信頼を得る方法が満載で、「人と向き合うすべての仕事に役立つ!」「とても共感した!」「営業が苦手な人に読んでもらいたい!」と話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、ホテルマン時代に見つけた「お客様の記憶に残る方法」について紹介します。
ビールを注がれるのを待つ「沈黙の時間」
「当たり前」の行為を変えることで、お客様の記憶に強く残ります。
それに気づいたのは、リッツ・カールトンで働いていた頃でした。当時も「お客様の記憶に残るためにはどうすればいいか」と考えていた僕は、周りの従業員を見て、ひとつの当たり前に気づきました。
「ビールの注ぎ方」です。
通常、瓶ビールを注ぐときはお客様の前にグラスを置き、瓶を手に持って静かに注ぎ入れます。勢いよく注ぐとビールが泡立つため、どの同僚も、ゆっくり少しずつ時間をかけて注いでいました。その間、お客様も注がれるのを黙って眺めているだけです。
普通のビールの価値を何倍にも高めた
「ちょっとした工夫」
「これだ!」と思いました。
この沈黙の時間を、楽しいものに変えられないだろうか。
そう考えた僕は、ビールの注ぎ方を少しアレンジしてみました。グラスはテーブルに置かず左手に持ち、自分の顔の高さで注いでみると美しいんじゃないか。あえて高い所から注ぐと絵になるんじゃないか。ローテーブルに座っているお客様だと見づらいから、そのときは片膝をついて目線を合わせて注ごう。
瓶ビールの抜栓と、グラスに注ぐ所作を、誰よりも美しく見えるように猛特訓したのです。
翌日のお昼にさっそく試してみると、お客様は「わー! すごい!」と大盛り上がり。写真を撮られ、一口飲んだ後に「こんな美味しいビールは初めて!」と絶賛していただけました。それを見ていた他のお客様も瓶ビールを注文するほどの盛況ぶりでした。
すごく嬉しい出来事でしたが、さらに驚いたのは、その翌週。なんと同じお客様が「福島さんがいるなら予約したい」と、僕を指名して予約してくれたんです。「瓶ビール4つ」と、事前のオーダーまでありました。
喜んでくれた理由をお客様に聞くと、こう言われました。
「瓶ビールの注ぎ方にこだわっている人なんて、初めてだったからよ!」
中身はどこにでもある、ただのビールです。でも魅せ方をちょっと変えただけで、お客様は何倍にも価値を感じてくたのです。
小さな「当たり前」を変えるから
大きな印象を残せる
というように、当たり前のことを少し変えてやってみるようにしました。「そんな小さなことで」と思われたかもしれませんが、小さな「当たり前」を変えるからこそ、大きな効果があります。
「当たり前」だからこそ他の人と比較できて、違いが伝わります。
誰もが知っている「ビール」の注ぎ方を変えたから、特別な体験になったのです。
それに、当たり前に対する期待は低いからこそ、期待を超える驚きを与えるのも難しくありません。
いきなり「記憶に残る特別なことをしよう」なんて考える必要はありません。まずは、みんながやっている当たり前を見つけることから始めてみましょう。
(本稿は、『記憶に残る人になるートップ営業がやっている本物の信頼を得る12のルール』から一部抜粋した内容です。)
「福島靖事務所」代表
経営・営業コンサルティング、事業開発、講演、セミナー等を請け負う。高校時代は友人が一人もおらず、18歳で逃げ出すように上京。居酒屋店員やバーテンダーなどフリーター生活を経て、24歳でザ・リッツ・カールトン東京に入社。31歳でアメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドに入社し、法人営業を担当。当初は営業成績最下位だったが、お客様の「記憶に残る」ことを目指したことで1年で紹介数が激増し、社内表彰されるほどの成績となった。その後、全営業の上位5%にあたるシニア・セールス・プロフェッショナルになる。38歳で株式会社OpenSkyに入社。40歳で独立し、個人事務所を設立。『記憶に残る人になる』が初の著書となる。