JR高山本線を走行するHC85系気動車JR高山本線を走行するHC85系気動車。2022年にユーグレナ由来のバイオディーゼル燃料で走行する実証実験が行われた Photo:PIXTA

「短期的にはバイオディーゼル、長期的には水素」
水素活用のメリットと課題は?

 非電化区間が全路線の3割以上を占めるJR6社にとって、共通の悩みは「気動車の燃料消費と排気」だ。気動車のディーゼルエンジンは軽油で動き、有害な物質を含む黒い煙を立てて走るため、化石燃料(軽油)の削減と排気の減少を同時に進める必要がある。

 そこで、JR各社の非電化路線では、廃油の再活用やユーグレナ(藻の一種)由来のバイオディーゼル燃料の導入に向けた実証実験や、低燃費エンジンへの置き換えを行ってきた。が、水素(2H2)を動力として使えば、酸素(O2)との結合による燃焼エネルギーで動き、化合後に出てくるのは水(H2O)のみ。ほぼ全く排気を出さない分、軽油やバイオディーゼル燃料より、はるかに環境性能が良い。

 JR東日本、そしてJR西日本もすでに水素活用の構想を発表している。電化区間はそのまま電気を動力に使い、気動車が走る非電化区間の次世代燃料は「短期的にはバイオディーゼル燃料、長期的には水素」という方向で進むだろう。

 では、水素を活用するメリットと具体的な課題は何か。水素は運搬前にトルエンの化学反応で、ガスの状態から液状のメチルシクロヘキサン(MCH)となり、容量は500分の1程度となる。この状態なら常温、定圧で運べる上、法令上の区分としてはガソリンや軽油と同様の「第4類第1石油類」であるため、既存の給油施設の転用で新規投資を抑えたり、取扱資格のある人材を活用できる。

 JR東海は、使う前にMCHをトルエンと水素ガスに分離し、水素ガスはそのまま燃料として使用し、トルエンはまた送り返して水素ガス→MCH化に使用する。他に、水素ガスをマイナス253度まで冷却して得られる「液化水素」などの方法もあるが、鉄道車両の燃料として使用するのであれば、常温・定圧で運べるMCHの方が、何かと有利であろう。

 ただ、供給拠点となる水素ステーションはまだ少ない(21年時点で140カ所)。これは、先述のトヨタMIRAIの伸び悩みの原因でもある。国内では自家用車よりも先に鉄道やバスなど業務用での水素利用が、先行して広まっていくかもしれない。