「工場の外で客と商談する場所」として
喫茶店が増えた

 キティ珈琲店を受け継ぐ決意をしてから、祐介さんは名古屋の喫茶店文化について調べたり、さまざまな喫茶店を訪れて研究したりしてきた。

「かつて、名古屋や一宮などの尾張地方は家族経営の小さな工場が多かったのですが、工場の中はゴチャゴチャしていたので、お客さんと近所の喫茶店で商談したそうです。そんな理由もあり、喫茶店が増えていき、居心地が良い空間だったことから、時代とともに老若男女がくつろぐ憩いの場所へと変化していったんです」(祐介さん)

 こうした「誰もがくつろげる名古屋の喫茶店の良さ」を残していきたいと、キティ珈琲店ではレトロな電話やステンドグラス風の窓、ゲーム台のテーブルなど、懐かしく落ち着ける空間をそのまま受け継いでいる。

「最近ではレトロブームもあり、若い人たちもよくお店に来てくれます。高校生や大学生のアルバイトの子たちも『こんな素敵な場所で働けて、お給料ももらえて最高です!』と喜んでくれています。名古屋で脈々と受け継がれてきた『喫茶店文化』を、僕たち若い世代が受け継ぎもっともっと広めていきたい。それが、今の大きな目標です」(祐介さん)

 さらに、「東海地方の魅力を発信する拠点にしたい」という当初からの思いを形にするために、地元で活動するアーティストを招いて音楽イベントを開催したり、若い占い師のポップアップイベントなども開催してきた。最近、前職でイベントの企画や運営経験がある後輩の岩﨑方哉さんが店長として仲間に加わり、これからはより地域の魅力を発信する活動に力を入れていきたいという。

 そのためにも、キティ珈琲店と同じように継ぐ人がいなくて閉店せざるを得ない喫茶店があったら、自分たちが承継して数年以内にもう1店舗オープンしたい。そんな次なる夢を、森田さん兄弟は思い描いている。

「それをケチってはダメだ!」喫茶店の前マスターがたった1度だけ怒ったことステンドグラス風の窓が、どこか懐かしい雰囲気 Photo by A.C. 
「それをケチってはダメだ!」喫茶店の前マスターがたった1度だけ怒ったこと店の看板は1983年の開店当時から変わらず使用している Photo by A.C. 
「キティ珈琲店」 愛知県名古屋市中区錦1-14-5