子どもの足写真はイメージです Photo:PIXTA

夏の風物詩の一つ、怪談――。誰しも、怖い話の1つや2つは知っているのではないでしょうか? 本稿では、時代やメディアを象徴する怪談の中から「ザシキワラシ」と「口裂け女」の2本を紹介。解説は、怪談・都市伝説研究家の吉田悠軌氏。ただ怖いだけではない、教養として知っておくべき怪談基礎講座をお楽しみください。

※本稿は、吉田悠軌『教養としての最恐怪談 古事記からTikTokまで』(ワン・パブリッシング)の一部を抜粋・編集したものです。

ザシキワラシ

 当時から見て数十年前、岩手県遠野(とおの)の山口集落に、孫左衛門(まござえもん)という金持ちがいた。ある日、孫左衛門の家の梨の木に、見知らぬキノコが大量に生えたことがあった。

「こんなもの食べないほうがいいだろう」、そう孫左衛門は制したのだが、「水に漬けて麻の茎でかきまわせば大丈夫ですよ」と下男が言うのでその日の昼飯とした。

 だがそれは毒キノコだった。家にいた20数名全員が中毒を起こし、数時間のうちに死んでしまったのである。唯一助かったのは、外に遊びに出ていた7歳の娘だけ。

 しかもこのどさくさに紛れて集まった親戚たちが、孫左衛門の家財を味噌にいたるまで持ち去っていった。娘は貧しく孤独のまま老人となり、このあいだ病死したのだという。

 彼女が亡くなってから、遠野の人々はこんな噂をささやきだした。

「昔な、孫左衛門の家のやつらが死ぬ直前にな、おかしなものが目撃されたらしいぞ」

 ある男が街から帰ってくる途中、橋のほとりで2人の幼女と出くわした。顔も身なりもよい娘たちが肩を揃えて歩いているので「お前たち、どこからきた」と男が訊ねると、

「おら、山口の孫左衛門がところからきた」

 沈んだ様子でそう答えるので、ではどこへ行くつもりか質問を重ねると、

「○○の村の、××の家だ」

 そういえば××家はちょうどその頃から金回りがよくなり、今では立派な豪農である。だからなのか、と人々はささやいた。2人の幼女はザシキワラシだったのだ。孫左衛門の家はザシキワラシがいなくなったので滅び、代わりに××家が栄えたのだ……と。

 この話を語ったのは遠野出身の佐々木さん。ザシキワラシを世に広めた第一人者だ。

「単に私個人の連想で、ザシキワラシとは似て非なるものかもしれませんが」

 佐々木さんはそう注釈した上で、「若葉の魂」との関連性を指摘している。つまり幼くして死んだ子ども、間引きで殺された子どもたちのことである。生まれてすぐ圧殺された嬰児(えいじ)は、土間の踏み台の下など、よく人々に踏みつけられる場所に埋められた。そうすれば病気を癒やす守り神となる、と信じられたからである。

「無残な死に方をした幼児の霊魂も、家の梁の上に留まるといいますね。例えば」