多くの企業で「1on1」が導入されるなど、職場での「コミュニケーション」を深めることが求められています。そのためには、マネジャーが「傾聴力」を磨くことが不可欠と言われますが、これが難しいのが現実。「傾聴」しているつもりだけれど、部下が表面的な話に終始したり、話が全然深まらなかったりしがちで、その沈黙を埋めるためにマネジャーがしゃべることで、部下がしらけきってしまう……。そんなマネジャーの悩みを受け止めてきた企業研修講師の小倉広氏が、心理学・心理療法の知見を踏まえながら、部下が心を開いてくれる「傾聴」の仕方を解説したのが『すごい傾聴』(ダイヤモンド社)という書籍。「ここまでわかりやすく傾聴について書かれた本はないだろう」「職場で活用したら、すぐに効果を感じた」と大反響を呼んでいます。本連載では、同書から抜粋・編集しながら、現場で使える「傾聴スキル」を紹介してまいります。
まず、こちらがリラックスする
職場の1on1などで「よい傾聴」をするためには、まずはじめに、上司の側が心の緊張を解き、リラックスする必要があります。
上司の心のなかがざわついていたり、心ここにあらずといった状態だと、一言も言葉を交わさずとも、それは部下にも伝わってしまいます。その結果、部下も安心して心を開くことができず、「傾聴」も全く成立しないということになってしまうのです。
ですから、まずはこちらがリラックスした状態になることが大切。これができなければ、どんなに「傾聴スキル」「コミュニケーション・スキル」を学んでも、それを活用することはできないでしょう。
「身体感覚」を感じると、心が落ち着く
そこで、まず「呼吸」を整えることで、「副交感神経優位」で落ち着いた状態になったうえで(詳しくは『わずか30秒で「ざわついた心」が穏やかになる超簡単な方法とは?』を参照)、さらに、「思考優位」ではなく「感情や身体感覚優位」でマインドフルな状況になるために、その場で「オリエンテーション」をすることを私はお勧めしています。
「オリエンテーション」とは周囲をぐるりと見回して、視覚的、聴覚的、触覚的、嗅覚的(味覚的)にゆっくりと身体感覚を感じることです。
そして、その中でウエルビーイング(心地よい、幸せ)な対象を定めます。その対象、例えば窓の外の森の緑や、部屋に置いてあるぬいぐるみなどに視線を合わせ、時にはぬいぐるみなどを実際に手に取り抱きしめたり(触覚)しながら、ゆったりと心が満たされることを感じるのです。
心が満たされる対象を見つける
このように、心がウエルビーイングで満たされるような対象を「リソース」と呼びます。
いちばんやりやすいのは、部屋全体を見渡すオリエンテーションによってリソースを見つけることですが、それが難しければ、過去の記憶やイメージからリソースを見つけることも可能です。
例えば、以前旅行で訪れたハワイの浜辺で青い空を眺めているイメージとか、森の中のキャンプでたき火に当たっているイメージとか、子どもの頃に飼っていた犬を抱きしめてぬくもりを感じているイメージとか、そうしたイメージもリソースになります。みなさんにも、思い出すだけで、心がホッとしたり、幸せな気持ちが蘇るようなワンシーンがあるはずです。それは、まさに「宝物」のようなものなのです。
そして、そのリソースにじっくりと浸るのです。できれば論理で解釈分析せずに、「内臓感覚」や「身体感覚」でゆったりと感じるのがコツです。そして、ゆったりとリラックスすることができれば、自然と部下は心を開いてくれて、「よい傾聴」ができるようになります。そして、部下一人ひとりとの信頼関係をコツコツと築くことで、強いチームワークを生み出すことができるようになるはずです。その意味で、私は、「ゆったりとリラックスした上司」こそ最強だと思うのです。
(この記事は、『すごい傾聴』の一部を抜粋・編集したものです)
企業研修講師、心理療法家(公認心理師)
大学卒業後新卒でリクルート入社。商品企画、情報誌編集などに携わり、組織人事コンサルティング室課長などを務める。その後、上場前後のベンチャー企業数社で取締役、代表取締役を務めたのち、株式会社小倉広事務所を設立、現在に至る。研修講師として、自らの失敗を赤裸々に語る体験談と、心理学の知見に裏打ちされた論理的内容で人気を博し、年300回、延べ受講者年間1万人を超える講演、研修に登壇。「行列ができる」講師として依頼が絶えない。
また22万部発行『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)など著作48冊、累計発行部数100万部超のビジネス書著者であり、同時に心理療法家・スクールカウンセラーとしてビジネスパーソン・児童・保護者・教職員などを対象に個人面接を行っている。東京公認心理師協会正会員、日本ゲシュタルト療法学会正会員。