国際大会に強くなった「三つの要因」
日本人選手の度胸が据わったのはなぜ?

 昔は五輪といえば、金メダル候補に熱狂的な期待がかけられ、その重圧に負けて敗退し、日本中の落胆と非難を受けるというケースが少なくありませんでした。その前例があるだけに、ますます緊張して、失敗する選手がたくさんいました。

 1964年の東京五輪で言えば、陸上の依田郁子選手(女子800m)、競泳の岩本和行選手(1500m自由形)もそうでした。同じく体操では、前回個人総合金メダルを獲った体操・小野喬選手が4位落ち。また神永昭夫選手は柔道無差別級決勝で破れ、銀メダリストなのに「柔道日本の名を汚した」と轟々と非難されました。

 それに比べて、今回のパリ五輪での選手たちの表情が明るいことには驚きます。14歳のスケートボード金メダリスト・吉沢恋選手などは、自分の中学校の運動会で優勝したような感覚でインタビューに応えていました。

 いつから、日本人選手はこれほど国際大会に強くなったのでしょうか。原因を探ると三つの変革が見えてきました。

 第一に、メンタルトレーニングを採り入れる選手が多くなったことです。以前の日本では、スポーツ選手は根性がありメンタルが強いのが当然とされ、メンタルトレーニングを受けていること自体が選手としての力量を低く見られる傾向がありました。

 パイオニアとなったのは、プロ野球の稲葉篤紀外野手(現日ハムコーチ)です。ヤクルト時代は隔年で成績が上下するなど不安定だったため、首脳部からの覚えが悪く、FAでメジャーを目指しましたが、誘いはゼロ。日本ハムファイターズに拾われました。

 一念発起した彼はメンタルトレーニングを受け、日ハムでは毎年好成績。北海道のファンは稲葉が打席に登場すると、座席で全員ジャンプする「稲葉ジャンプ」で一気に全国区の人気者になり、日本代表監督を勤めた時代もありました。

 以降、次々とメンタルトレーニングに挑む選手が増えました。私が知る限りでも、アーチェリーの古川高晴選手は、自律訓練法というメンタルコントロール手法を採り入れ、試合前の緊張や不安を軽減するために役立てています。卓球の水谷隼選手も、ロンドン五輪後の不調を乗り越えるためにメンタルトレーニングを採り入れ、2021年東京五輪での金メダル獲得に繋げました。

 ゴルフの宮里藍選手やテニスの錦織圭選手も、メンタルトレーニングを重視しています。まだまだ知っている選手はいるのですが、個人情報のため、公表している人のみを挙げておきます。また、協会や代表チームとしてメンタルトレーニングを実施している組織もあります。