時代は変わりました。今では、多くの選手が「五輪を楽しみたい」と記者会見で発言します。これもメンタルトレーニングの成果で、過度な緊張や目的意識から解放されリラックスするための、科学的に意味のある言葉なのですが、この発言でバッシングを受けたのが、美女アスリートとして人気だった千葉すず選手でした。

 有力な優勝候補だったアトランタ五輪本番では個人種目で決勝に進めず、メダルなしの結果に。五輪後「オリンピックは楽しむつもりで出た」と発言して、「国費で外国へ行くのに『楽しむ』とは何だ」と、国民だけでなく水泳協会幹部の怒りまで買ってしまいました。

 アトランタ五輪は1996年。千葉選手は女子競泳チームの主将でもあったので、米国での練習でメンタルの維持のために米国のコーチから習ったこの言葉を使ったのだと思います。日本のスポーツ医学は遅れに遅れていたのです。実は1975年のミュンヘン五輪で、すでにソ連がスポーツにメンタルトレーニングを採り入れていることがわかっています。

ケタ違いにお金がかかる
スポーツでも台頭した理由

 第二に、富裕層のスポ―ツに日本が強くなったことが挙げられます。

 フェンシングに馬術、フィギュアスケートなどは、用具にお金もかかり、庶民に手が届かないスポーツと言われています。たとえば、フェンシングの費用を見てみると、エペ剣:1万~5万円、フェンシングマスク:1万~3万円、フェンシングジャケット:2万~5万円、グローブ:5000~1万円、フェンシングシューズ:1万~2万円、その他のアクセサリー(プロテクター、ボディコードなど):各種5000~2万円といった価格帯です。

 馬術となるとケタが違います。馬の購入費用としては、国内産の乗用馬が10万~300万円程度、海外からの輸入馬が200万~500万円以上します。また、維持費・預託料:月10万円前後、調教料:月4万~10万円、馬蹄費:1~1.5カ月ごとに1万〜2万円、ワクチン代や獣医師の診療代・実費その他の費用・輸送費:数百万~2000万円程度(遠征先による)、装備品(鞍、プロテクターなど):数万~数十万円と、とにかくお金がかかります。

 パリ五輪で92年ぶりの金メダルを獲得した「初老ジャパン」と自虐する馬術チームは、全員海外在住ですが、スポンサーの援助を受けていて、べつに大金持ちではないそうです。ただし、92年前の金メダリスト・西竹一選手は男爵(バロン)、つまり貴族でした。

 他にもヨットやゴルフ、アーチェリーなどお金のかかるスポーツで、日本は強くなりました。お金があるということは、メンタルトレーニングを受ける財力があり、海外遠征を何度も行うことも可能なはずです。いわば格差社会の進行が、欧米で富裕層が好むスポーツにおいても日本が強くなれる結果を生んだわけです。