まわりの同期がどんどん出世していく中、自分だけ出遅れている。自分はいつになったらやりたい仕事で成果を出せるようになるのだろう? 徐々に開いていく実力の差に、焦っている人も多いだろう。
キャリアの壁にぶつかり、不安になったときに読んでもらいたいのが『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』だ。フリーライターとして約30年の経験を持ち、これまで3000人以上の著名人にインタビューをしてきた上阪徹氏。大企業の社長や起業家、俳優、作家など、いわゆる社会的に成功した人に取材する中で、「どうして、この会社に入られたのですか?」「どうして、この仕事を選んだのですか?」とたずねてきたという。一流のビジネスパーソンたちが「成功する前の下積み時代をどう過ごしていたのか」が、具体的なエピソードとともに解説されている本書。
今回は、そんな本書のエッセンスをご紹介する。(文/川代紗生、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

3000人の成功者に聞いてわかった「入社1年目でやるべき」1つのことPhoto: Adobe Stock

成功者たちの「下積み時代」に共通する1つのスタンス

 本書にはさまざまなエピソードが登場するが、なかでも興味深かったのは、「成功者たちは、入社1年目で何をやっていたか」だ。

 大企業の社長、ベンチャーの創業者、一流クリエイターなどの「成功者」たちが、「キャリアのはじめの1年を、どんなふうに過ごしていたのだろうか」という疑問に答えてくれる。

 20代前半の頃から「自分はこれをやるんだ!」と、明確な目標を持っていたのかと思いきや、実は、流されるように社長になってしまった人も多いらしい。

 社長になるつもりもなかった人、本当は他のことをやりたいと思っていたけれど別の分野で才能を発揮した人、そもそも「やりたいことがなかった」という人も多い。

その気はなかったのに、後にコンビを組む藤子・F・不二雄さんに誘われて漫画家になったというかつて会社員だった藤子不二雄Ⓐさん。
一度、東京を見てみたいと、長崎から上京、千代田区役所に勤務していたとき、偶然、同僚にチケットをもらった劇団俳優座の公演がきっかけで、俳優の道に進むことになった役所広司さん。(中略)
3000人以上の方にインタビューをしてわかったことは、人生が思い通りに進んだ人など、まずいない、ということです。(P.29-30)

 成功者たちの「下積み時代」のエピソードに共通しているのは、「偶然や運や縁を信じてみる」ということだ。

 花形ではない部署に配属されても、自分の思うような仕事ができなかったとしても、まずは想定外の展開を受け入れ、楽しんでみる。

爆発的に成功したプロたちが1年目でやっていたこと

 たとえば、ボストン・コンサルティング・グループで長く代表を務めた御立尚資さんは、大学卒業後の最初のキャリアは日本航空。

 幹部候補生として入社したが、1年目は大阪の空港カウンターでのチェックイン業務。2年目はアシスタントパーサー(客室乗務員を統率する役割)として機内サービス業務なども行うなど、現場の仕事が中心だったという。

 そんな御立さんの人生訓は「希望するけれど予定しない」だそうだ。

実際には偶然も手伝って、思いも寄らないチャンスが与えられることは、世の中にたくさんある。御立さんはそう語っていました。そういう偶然を否定してしまう人生というのは寂しいと思う、とも。(中略)
でも、何が来るのかは読めない。ただ、読めないところに本当に面白いものや、自分がやらなければいけないものがあるのです。こうも言っていました。人のポテンシャルは、自分が思っているよりも大きいケースが多い。それを信じられるかどうかなのだ、と。(P.106-107)

 また、資生堂の会長CEOの魚谷雅彦さんは、もともと、世界を飛び回る仕事がしたいと思っていた。そこで、留学制度があるライオンに新卒入社したものの、入社して3年間は営業をやらなければならないと知り、不安でたまらなくなったそうだ。

 そこで、新入社員の夏、知り合いの年配の人に相談してみたところ、こんなことを言われ、心の持ちようを変えたという。

「君の気持ちは理解できる。前向きな気持ちがある人間ほど悩むもの。問題意識を持つことはいいことだ。でも、まだ22歳。とにかく一年間ガムシャラに仕事をしてみたらどうか。一年経ってそれでも夢が実現できそうにないと思ったら、改めて決断すればいい」(P.93)

 楽天の創業者・三木谷浩史さんが最初に入社した日本興業銀行(現・みずほ銀行)では、配属先でまずコピー取りを指示された。嫌々やっていた同期もいたが、三木谷さんは「どうすればもっとも美しく、効率的にコピーが取れるか」を考えながらやった、というエピソードもあった。

職場とは新しい「好き」を見つけられる場

 言われてみれば私も、腹を括って偶然を受け入れたときほど、キャリアステップの道が開けたように思う。

 たとえば、人前でプレゼンする仕事を任されたとき、目立つのが苦手な私は嫌で嫌で仕方がなかったのだが、思い切ってやってみたら「すごくわかりやすかった」と褒めてもらえたことがあった。

 結果的に、話す仕事を依頼されたり、顧客からの信頼度が高くなったりと、仕事の幅を広げるきっかけにもなった。

 本書を読んであらためて思ったのは、会社とは、任されなければ見つけられない「好き」や「得意」を見つけられる場なのだ、ということだ。

 苦手意識があったり、印象があまりよくないものに対して、自ら手を出そうと思う人はあまりいないだろう。選べる権利が自分にあるのなら、興味があるもの、得意なものを選ぶはずだ。

 しかしそれだと「得意」の範囲も経験の幅もどんどん狭まって、先細りしてしまう。自分の可能性を狭めることにもなりかねない。

 他人に言われたからこそ、他人と一緒にやるからこそ見つかる「得意」や「好き」を探す。10年後、20年後、30年後に本当にやりたい仕事をやるために、入社1年目は「好き」の調査期間ととらえる。

 そういうスタンスで仕事をするのもありなのではないだろうか。