昨今、全国的に公立中高一貫校が増え、中学受験の選択肢のひとつとなっている。ただし公立中高一貫校の入試は「適性検査」と呼ばれ、私立の教科型の学力試験とは似て非なるものだ。また、私立と公立では入学してからの雰囲気も大きく違うので、事前に知って志望校を選びたい。本記事では、安浪京子著『大逆転の志望校選びと過去問対策 令和最新版』の中で、取材協力いただいた公立中高一貫校の入試に詳しい高橋かおり先生と安浪氏の対談で、公立中高一貫校の実態について掘り下げたい。(構成 ダイヤモンド社書籍編集局 井上敬子)

【中学受験の志望校選び】私立に向いている子、公立中高一貫校に向いている子Photo: Adobe Stock

「作文が得意」だけでは受からない公立中高一貫校

安浪京子(以下、安浪):全国的に今、公立中高一貫校が増えていますね。

高橋かおり(以下、高橋):東京では2005年からスタートし、初年度は倍率が10倍を超えることもありましたが、今はどこも5倍前後。勉強していないと合格できないことが分かって冷やかし受検が少なくなったので、倍率も落ち着いてきたようです。

【中学受験の志望校選び】私立に向いている子、公立中高一貫校に向いている子安浪京子(やすなみ・きょうこ)
算数教育家/中学受験専門カウンセラー/株式会社アートオブエデュケーション代表取締役/オンラインサイト中学受験カフェ主宰/気象予報士
神戸大学を卒業後、関西、関東の中学受験専門大手進学塾にて算数講師を担当後、独立。プロ家庭教師歴約20年超。きめ細かい算数指導とメンタルフォローをモットーに、毎年多数の合格者を輩出。きょうこ先生として様々なメディアで活躍中。

安浪:私立と違って「報告書」「適性検査」「作文」(面接)で総合的に判断されますよね。以前は小学校の勉強に作文対策を少しするだけで受かる子もいたとは聞きますが…。

高橋:公立中高一貫校の入試は作文で決まると思われがちですが、実際に勝負がつくのは算数分野が多い。算数に関しては学校の勉強だけでは太刀打ちできないので、やはり塾で私立の勉強をしていた子が強いんです。特に、都内で言えば、小石川・桜修館・両国・武蔵の4校は難関私立を受ける子たちが併願校としているので、同じ土俵で戦わないといけない。

安浪:しかも、作文も、ただうまいだけじゃ合格できないんですよね。

高橋:そうなんです。「課題の文章を読んで、あなたの経験を踏まえて書きなさい」というような問題の場合、経験はどんな内容でもいいですが、最後はそれを活かして自分はどう問題を解決したいかという流れにするのが鉄則。たとえば、「友達と喧嘩をして反省した」で終わりじゃなく、そこから何を学び、どう役立てたいかを書かねばならない。どの学校も社会のリーダーとなるような、課題を俯瞰し解決できる子を求めているんですよ。

安浪:「喧嘩したけど、俺は悪くないし学んだこともない」と書く子は受からない(笑)。

高橋:心の中ではそう思っていても、合格のための作文は別と割り切って書ける「成熟度」が求められます。公立一貫校って「こんな生徒がほしいので、この出題傾向である」というアドミッションポリシーがしっかり書かれていますから、それに沿って書くのが基本なんです。

安浪:それは面白いですね。私立は建学の精神はあっても、それが入試問題に反映されることはあまりないですからね。しかし、そこまで子どもに指導するのは大変ですね。

【中学受験の志望校選び】私立に向いている子、公立中高一貫校に向いている子高橋かおり(たかはし・かおり)
株式会社アートオブエデュケーション公立中高一貫校受検カウンセラー/プロ家庭教師
塾では文系コースを中心に10年以上担当。都立中高一貫校の黎明期より適性検査対策を研究し、子どもの論理力と自信を育む指導を心掛けている。

高橋:そういう意味でも、私立の勉強をしてる子はメンタルが強い。普段から難しい問題を解いてバツをもらうことに慣れてるから、作文で指導されることに抵抗がないんです。でもそうでない子は自分の作文に赤字を入れられるだけで、自分を否定されたようにショック受けてしまいます。

安浪:なるほど。私立型の勉強をしているほうが、勉強面でもメンタル面でも強いんですね。

高橋:私立と公立、同じくらいの志望度合いのご家庭には、塾は私立の受験をすすめることが多いですね。公立の適性検査はバクチ的な面が大きいですし、報告書(内申書)の割合も高いので、実力で勝負をしたい子には私立のほうがむいています。あと、同じ公立中高一貫校でも、適性検査の内容は違います。公立中高一貫校に共通する「共通問題」とその学校オリジナルの「独自問題」から構成されているのですが、経験的に「独自問題」と相性がいい子はその学校に受かりやすい傾向がありますのでひととおり過去問をやってみるといいですね。

公立中高一貫校に向いている子とは?

安浪:私立よりも公立中高一貫校のほうが向いている子ってどういう子だと思われますか?

高橋:公立は天才型より各教科まんべんなくコツコツ努力できる秀才型のほうが強い印象です。また、小学校からの報告書(内申書)もそれなりに配点があるので、担任の先生との相性がよくない子は不利かもしれません。

安浪:公立中高一貫校にいった教え子の中1の時間割を見たら、主要5教科だけで10科目もあり、驚きました。他の私立難関校でもそこまで科目数多くない。マルチタスクでオールマイティに器用な子じゃないと、入学してからもついていくのが大変かもしれませんね。

高橋:科目が多いと宿題も中間期末もすべて大変になりますからね。ただ、現場の先生たちは、どの子も取りこぼさず、上にあげたいという思いが強く、勉強のフォロー体制などは私立よりもいいのではないかと思います。

安浪:教育において「ボトムアップ」という理想をお持ちの先生方は公立のほうが多いかもしれませんね。

高橋:学校の雰囲気も、私立と公立ではだいぶ違います。私立の学園祭は、企業か大学のように豪華ですが、公立はお金もかけられないので、生徒が先生にかけあっていろいろ交渉したりして、工夫して手作りでやっています。

安浪:子どもが実際に学校見学に行くと、私立のキラキラした雰囲気がいいという子と、公立の質実剛健な「学校っぽい感じ」のほうが落ち着くという子に分かれますね。

「学費」だけではない経済的なメリット

高橋:実際に通うとなると、学費が安いのも大きなメリットですね。

安浪:私立高校無償化の流れはありますが、無償になるのは基本的には授業料のみですからね。兄弟で私立と公立にいかせている親御さんは、寄付金や部活や修学旅行といったオプション部分のお金のかかり方の桁が違うと言っていました。

高橋:公立中高一貫校は大学受験の指導も熱心です。私立の進学校は、基本的には生徒任せなので塾や予備校で受験対策をする子が多いですが、公立中高一貫校は、学校で全部面倒見ますというところも多い。実際、夏休みに大学入試のための講座が開かれていたり、先生が個別に見てくれたり、やる気のある生徒には、先生も熱意をもって対応してくれます。公立から東大・京大に受かるような子は、ほぼ学校だけという子も多いです。親が教育熱心で、塾や予備校に大金を投じて、というタイプは少数派ですね。

安浪:それはコストパフォーマンスがいいですね。私学は、先生があまり変わらないので文化が根づきやすいけど、公立は校長はじめ先生方が異動でしょっちゅう変わるので文化ができにくいといいますが、そこはどうですか。

高橋:先生の異動は確かに多いですが、「旧制高校」時代からの伝統が残っている学校もあり、OB会組織が学校に協力していていることもありますので「校風」は引き継がれていますよ。

*本記事は、『中学受験 大逆転の志望校選びと過去問対策 令和最新版』の著者・安浪京子さんと、本書の執筆のために取材協力していただいた高橋かおり先生との対談をウェブ用に編集したものです。