多くの人が、人生のどこかでウソをついた経験があるのではないだろうか。非暴力・不服従の運動で有名なマハトマ・ガンジーですら、若い頃にはついウソを重ねてしまったことがあるという。ただ、彼はそのウソによって、非常に心苦しい思いをしたようだ。それは一体どのような体験だったのか。マハトマ・ガンジーの孫であるアルン・ガンジーは、祖父の教えを綴った著作『おじいちゃんが教えてくれた 人として大切なこと』で、ウソをつかないほうが良い理由を教えてくれている。本記事では、書籍の内容をもとにマハトマ・ガンジーの教えを紹介する。 (文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)
ウソは自分の首を絞める
人を傷つけないための“優しいウソ”ならまだしも、誰かを欺いたり、騙したりするためのウソはなんとも後味が悪いものだ。
また、一度ウソをつくと、そのウソを誤魔化すために、さらにウソを重ねることになる。
どんどん苦しくなってくる一方だ。
その場を取り繕うためにウソをついてどんどん追い込まれてしまい、「いっそ、最初から正直に言って相談すればよかった」と後悔した経験がある人もいるだろう。
アルンによると、インド独立の父として有名なマハトマ・ガンジーもそんな経験のある一人だという。
マハトマ・ガンジーは、非暴力・不服従の原則を守りながら、宗教間・人種間の融和、不当な身分制度の廃止、女性の権利拡大などを求める運動を主導してきた人だ。
そんな偉大な人だから、筆者を含め「慈悲深く、決してウソなどつかない人」というイメージを持っている人が多いと思うが、子どもの頃は結構やんちゃだったようだ。
ガンジーも若かりし頃、ウソに苦しんだ
マハトマ・ガンジーの孫・アルンは祖父と共に過ごす時間の中で、さまざまな話を聞き、多くを学んだそうだ。
アルンはバプジ(マハトマ・ガンジーのこと)からウソにまつわる次のような話を聞いている。
バプジは12歳頃、禁止されていた「肉を食べること」と「タバコを吸うこと」をしてみたくてたまらなくなった。
タバコを吸う人たちの姿を見て、どうしても吸ってみたくなったバプジは、タバコを買うために家のお金を盗むようになったという。
さらに、バプジは体を大きくするために、内緒で肉を食べようと考えた。
初めて食べた肉はおいしいとは思えなかったが、その後もバプジは肉を食べるのをやめなかった。
さらに、肉のお金を払うために、兄弟の金貨を盗んだこともあったそうだ。
しかし、思ったように体が大きくならなかったこともあり、バプジは次第に肉を食べるのをやめ、両親にウソをつくこともなくなった。
ところが彼はその後、両親にこれまでのウソを告白できず、大層苦しんだという。面と向かって言うことができず、手紙を書き、その手紙もなかなか渡せなかった。
しかし、ある夜、重い病気にかかってしまった父親と二人きりになった時に、勇気を振り絞って手紙を渡した。すると、その手紙を読んだ父は涙を流し、バプジを抱き寄せると「息子よ、お前を許そう」と言ったのだ。
そこでバプジはもう二度とウソをつかないと誓いを立てたのだと、アルンに教えてくれた。
ウソも相手を傷つける暴力
バプジの言葉に次のようなものがある。
アルンは、「バプジの非暴力は、物理的に危害を加えないという意味だけではない。ウソをつくこと、だますことも、相手を傷つける暴力だと考えていた」と語る。
さらに、この種の暴力をやめさせることは、物理的な暴力をやめるよりもずっと難しいと信じていたという。
その教えを聞いたアルンも「どんな理由があるにせよ、自分にウソをついてはいけない」と思うようになる。
そして、アルンは、祖父が多くの人の支持を集めることができたのは、「ガンジーは真実だけを語っているということが人々にも伝わったからだろう」と語る。
ウソを捨てて、真実だけを語るようにすれば、人生を変えることができる──そしておそらく、あなたの国も変えることができるだろう。(P.148)
真実を語ることで、大きな力を手に入れる
インドを独立させるなど、マハトマ・ガンジーのような偉大なことは、誰にでもできることではない。
でも、ウソをつかないと決めることは誰にでも、すぐにできることではないだろうか。
ウソをつくことで生じる、不確かさはいつか自分の立場を危うくする。
本当は誰に言われるまでもなく、ウソをついたときの、心もとない不安定な感覚は、誰もが知っているはずだ。
そうアルンが語るように、ウソを手放すときっと大きな何かを手に入れることができるようになるに違いない。