知性派からタカ派、「若気の至り」まで
各総裁候補を辛口寸評
今回の総裁候補では、『転落の歴史に何を見るか:奉天会戦からノモンハン事件へ』という歴史家顔負けの立派な著書を書いた斎藤健氏も有力であり、同じく読書家で、書評をお願いすると秘書任せにせず、見事な原稿を書く石破茂氏もいます。二人とも勉強家特有の評論家的な欠点もありますが、最近の自民党になかった知性派の総裁候補です。
一方、高市早苗氏といえば、若気の至りとはいえ『30歳のバースディ:その朝、おんなの何かが変わる』(大和出版)で、〈「頭の中は恋のことでいっぱい」のプライベートライフには呆れられてしまうかも〉と宣言し、〈お酒の思い出といえば、地中海で、海の見えるホテルの部屋で、飲みィのやりィのやりまくりだったときですね〉と告白してしまう有様。女性候補といっても、女性が支持する可能性はそんなに高くはないと思います。
上川陽子氏は法相時代に、16人の死刑大量執行を実行した点が気になります。オウム真理教などテロリストへの執行は当然ですが、私も編集長時代、三人の死刑囚と文通での交流がありました。それぞれに死刑の不当を訴える手紙でした。上川氏の「死刑が決まっているのに実行されていないから、自分が決めた」という考えは果断なのか、官僚的なのか、意見が分かれると思います。
小泉進次郎氏については、作家の塩野七生さんの本を完全に読み込んで見事な対談をしたときは、総理候補であると認めました。父と同じ慶応大に入ることもできたはずなのに、最終学歴は有名校ではありません。「勉強嫌い」ならその後海外で政治の勉強をしろという「変人」教育方針だったのかもしれません。
河野太郎氏はあまりに変わり身が早いことや、SNSで反対意見をブロックする癖が批判されています。実際、小学校は地元、中学・高校は慶応大ですが、大学は2カ月で中退、海外の大学に進んでいます。この経歴は、エスカレーター式だった安倍・麻生と同じく、「独善牲がある」という評判を裏付けているようにも思います。
私は候補全員とある程度面識はありますが、面識のない小林鷹之氏は、保守本流の政策を目指し海外体験もある面白い存在ではあるものの、「同性婚も男女別姓も反対」と広言するタカ派ぶりが、総選挙で国民にどう思われるでしょうか。
今回の選挙は未来の日本を決める重大な選挙です。メディアも政治家も、先の先まで読んで総裁候補選びをしてほしいものです。
(元週刊文春・月刊文芸春秋編集長 木俣正剛)
・2ページの図表/林芳正氏の出身高校を、「灘高」から「山口県立下関西高」へと訂正。
(8月27日12:58:ダイヤモンド・ライフ編集部)