なかなか難しいお願いごとが、なぜかすんなり受け入れてもらえている。そんな人がまわりにはいないだろうか。どうして、あの人はいつもそうなのか。もしかしてそこには、相手への「伝え方」の違いがあるのかもしれない。そんな誰もが感じていた疑問に見事に応え、日本、さらには中国でもベストセラーになっているのが、『伝え方が9割』(佐々木圭一著)だ。「伝え方にはシンプルな技術がある」と説く、本書のメソッドとは?(文/上阪徹、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)
ダメダメ社員が、ヒット連発のコピーライターに
「おかげで好きな人とのデートが実現できた」「提出物の締め切りを延期してもらうことができた」……。著者の佐々木氏のメソッドを知った人からは、そんな声が上がることも少なくないという。
佐々木氏はコピーライターとして国内の賞を数々受賞、日本人コピーライターとして初めて米国広告賞で金賞、アジアの広告賞でグランプリになるなど、実績を持つ人物。
CHEMISTRYや郷ひろみのプロデューサーから作詞のオファーが来て、アルバムがオリコン1位になったり、日本人クリエイターで初めてスティーブ・ジョブズお抱えクリエイティブエージェンシーへの留学生にも選ばれた。大学で教壇に立ち、伝え方のメソッドを教える講演も数多く行ってきている。
ところが佐々木氏はもともと、コミュニケーションが下手だったのだという。広告代理店に大量入社した中で、たまたまコピーライターとして配属され、当初はダメダメ社員だった。そんな彼が、なぜヒット連発のコピーライターになれたのか。
自分には才能がないと毎日のように思い悩む中、彼が取り組んだのは、膨大な量の名作の言葉に触れることだった。そうやって、もがきながら、考え、試行錯誤の末、ひとつの事実を発見するのだ。
「感動的なコトバは、つくることができる」(P.7)
この気づきによって、佐々木氏は人生が一変したという。しかも徐々に変わったのではなく、突然、変わったのだというのだ。「伝え方の技術」が、それを可能にしたのである。
普通の人よりも伝え方がへたくそだったからこそ
世の中には、もともとコミュニケーションに長けた人がいる。自然に優れた伝え方ができる人がいる。
佐々木氏も、言葉を見つけられるのは、才能がある人たちだけだと感じていたのだという。ところがそうではなかった。佐々木氏のメソッドは、それを実感した彼が、自らの経験をもとに体系化したものなのだ。
しかも、才能がある人たちと同じようにコトバはつくれるのだ、と説く。
この文章を書いている私は、文章を書く仕事でフリーランスになって30年になる。よく、「書くのが得意だったのですね」と聞かれることがあるが、実はまったく違う。書くことは、子どもの頃から嫌いだったし、苦手だった。
いろいろな偶然があって、結果的に書くことを仕事にすることになったのだが、だからこそ、できたことがあった。それは、書くメソッドがわかったことだ。
書けなかったからこそ、どうして書けるようになったのかがわかった。これは才能があって、最初からスラスラ書ける人には、できなかったことだと思う。
佐々木氏も、こう記す。
個人が体系化しようとすると十数年かかるメソッドを、佐々木氏は惜しみなく教えてくれるのだ。
無理なお願いを、可能性アリに変える言葉
しかも、そのメソッドは極めてシンプルなものだ。本書からこんな事例を紹介しよう。
使える経費が満足とは言えない今、これほどオフィスで緊張感の走るコトバも少ないでしょう。一瞬かるい電流が走ったような。横に座る人も振り向きます。
そして事務のお姉さんは、あなたに目を合わせることなく無表情に言うでしょう。
「それはおとせません」と。(P.22)
しかし、もしかしたら成功率ほぼ0%のこのお願いを、可能性アリに変えるシンプルなコトバがあるという。佐々木氏は、そのシンプルな言葉を言わなかったこと、つまり伝え方にこそ、問題があったというのだ。
「いつもありがとう、山田さん。この領収書、おとせますか?」(P.23)
たったこれだけの差で、成功率は上がると佐々木氏は説く。そしてそこには2つの理由があるという。
まず、「ありがとう」と感謝する言葉を、人は否定をしにくい。これは人間が生まれ持った本能で、自分を認めてくれる人のことをサポートしたいという意識が生まれるのだという。
もう一つは、「山田さん」と名前を言われたことだ。名前を言われると、人は応えたくなるのだと佐々木氏は記す。身近に感じられるのだ。人は、関係ない人には断りやすいが、近い人には断りにくい。
そういえば、かつて取材でこんな話を聞いたことがある。
人生で最もたくさん耳にする言葉は何か。それは、名前である、と。名前こそ、最も自分にとって心地よい言葉なのだ。
就職活動で、プレゼンで、好きな人への告白で、友達へのお願いで。
それら全て、伝え方で成否が変わるものです。(P.23-24)
伝え方を変えることは、人生を変えることになる。そして、伝え方の技術は、それを知り、身につけることができる。佐々木氏はそんな生の経験をしたという。
そして、佐々木氏が見つけたメソッドは、シンプルで誰もが応用できるものだ。つまり、誰でも伝え方を変えることができるということである。
(本記事は『伝え方が9割』より一部を引用して解説しています)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『彼らが成功する前に大切にしていたこと』(ダイヤモンド社)、『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。