JR東日本が発足以来
掲げてきた「脱・鉄道」

 これまでのJR東日本のビジネスモデルは鉄道事業を主軸として、鉄道利用のために駅に集まる人々に向けた「エキナカ」や駅ビル、ホテルなどの生活サービス事業を展開し、グループとして収益をあげるものだった。ところが人口減少や消費行動、勤労形態の変化で鉄道利用者が減ると、このビジネスモデルは成り立たなくなる。

 そこで、鉄道事業が主、生活サービス事業が従ではなく、鉄道事業と生活サービス事業が2軸となり、ヒト・モノ・情報の交流を通じて「体験価値(ライフ・バリュー)」を提供する企業であると再定義したのである。

 編集プロダクションから本書企画の提案を受けたのは昨年末のことだったが、「脱・鉄道の成長戦略」というタイトル案は当初から存在した。鉄道事業者の各種事業は、全てが鉄道事業を軸に展開されるものであり、鉄道を廃業してバス事業者に転換した地方中小事業者のような例を除けば、本質的に「脱・鉄道」ということはありえないので、最初は抵抗があったのが本音だ。

 だが、本書を書き進めていくうちに、JR東日本を論じる上では、やはりこのタイトルがふさわしいのではないかと思うようになった。というのもJR東日本が「脱・鉄道」を掲げたのはコロナ禍に始まったことではなく、1987年の発足以来、一貫したものだったからだ。そしてそれは37年間でさまざまな危機を迎える中で徐々に研ぎ澄まされてきた。