2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が発売に。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える参謀人材(起業参謀)の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要な「マインド・思考・スキル・フレームワーク」について解説していく。
頭が痛いときの最適の処方箋とは?
真の課題を見つけ、事業のコンセプトを刷新するために、起業家や起業参謀は「優秀な医師」になる必要がある、と考える。
医師は患者を診断し、的確な処方をすることが仕事である。「頭が痛い」という患者が来た時、何も考えずに、頭痛薬を処方する医者は、果たして良い医者だろうか。
「頭が痛い」と患者は訴えているが、本当に自分が必要とするものをわかっていないかもしれない。頭痛薬を服用してスッキリする場合もあるだろうが、また翌日には同じように頭痛が発生してしまい、根本治療になっていないこともあるだろう。
そこで「なぜ頭が痛いのか?」という点を掘り下げると、「寝不足」ということが明らかになり、それに対する処方は「睡眠薬」となる。さらに「寝不足」をさらに掘り下げると「ストレス」という原因が見えてくる。
そうなると、ストレスを解消することが解決策となる。お酒が好きな人であれば、その時間を確保することになるだろうし、スポーツが好きな人であれば、体を動かすことが処方となる。
さらに、なぜ「ストレス」を抱えているのかというところまで掘り下げると、「子育てと仕事の両立の苦労」が見えてきたりする。そうなると、この問題に対する処方は「ベビーシッターを提供すること」だとたどり着ける(下図)。
真の課題を発見するためには、
「当たり前」のことでも深掘る必要がある
ただ、頭痛の患者に対して、頭痛薬を出すことが当たり前になっていると、深い原因まで考えないことが習慣化される。
真の課題を発見し、コンセプトを検証していく際には、この「当たり前」に対してメスを入れていく必要がある。上図の通り、問題と原因は何層にもなっていて、表面に見えている症状が真の課題とは限らない。
所与のものを疑うことで深掘っていき、真の課題を発見して、根本治療につなげていくことが、新たな価値を生み出すことにつながっていく。
(※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。