宇宙事業への参入で
海外にも広がるビジネスチャンス

 だが、このハードルを乗り越えた先には大きな可能性が待っている。JAXAの市川さんによれば、宇宙分野におけるAI活用は、衛星からの受信データを解析する事例がある程度で、状態監視への活用事例はほとんどないという。運用実績と汎用性を持った故障予測AIが実現すれば、同種の人工衛星を運用する他国への販売など将来的な事業化も不可能ではない。

 JR西日本の「宇宙進出」は社内にも刺激を与えている。データアナリティクス分析担当の上田さんは、社内公募制度でデータサイエンティストになった一人だが、そのきっかけがまさに2022年のJAXAとのJ-SPARC締結のニュースだった。

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 上田さんは元々、総合指令所でJR京都線や神戸線の運輸管理業務を担当していた。コロナ禍で鉄道事業の未来に不安を感じていた上田さんだったが、宇宙事業への参画を伝えるニュースを見て「うちの会社、すごいな」と驚いた。自分も加わりたいと考えた上田さんだったが、プログラミングやAIを専門的に学んだことはなかった。

 2023年初頭に行われた社内公募に向けて独学で猛勉強を重ねると、見事合格し、同年10月に現在の部署に異動。上司の計らいで、人生の転機となった宇宙事業の担当に任命されたのである。

 鉄道事業者による宇宙事業へのチャレンジは、日本のみならず世界の宇宙産業に貢献できる可能性を秘めており、同時にJR西日本グループの従業員を奮い立たせる触媒としても期待される。鉄道発のイノベーションは果たして宇宙まで届くのか、続報が楽しみだ。

【訂正】記事の初出時より以下の通り訂正しました。
5ページ3段落目
17機の人工衛星を運用→17機の人工衛星を保有
5ページ4段落目
上空360キロ→上空3万6000キロ
6ページ3段落目
スペース・システムス・ローラル、ロッキード・マーチン、ボーイング、オービタル・サイエンシズ、三菱電機の5社→マクサー、ロッキード・マーチン、ボーイング、三菱電機の4社
(2024年9月10日 17:32 ダイヤモンド・ライフ編集部)