「社員の呼び方で、妙な身内意識を露呈していませんか?」
そう語るのは、これまでに400以上の企業・自治体・官公庁等で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援をしてきた沢渡あまねさん。その活動のなかで、時代遅れな体質をもつレガシーな組織には共通する文化や慣習、空気感があり、それらを見直していくことで組織全体の体質を変えていけると気づきました。
その方法をまとめたのが、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』です。社員、取引先、お客様、あらゆる人を遠ざける「時代遅れな体質」を変えるためにできる、抽象論ではない「具体策が満載」だと話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「社員の呼び方」が組織体質に及ぼす悪影響について指摘します。

ハラスメント気質のある組織が社員を呼ぶときの「口ぐせ」・ワースト1イラスト:ナカオテッペイ

社員を「うちの子」呼びする組織

 呼び方が相手との関係性や組織風土にもたらす影響は決して小さくない。

 たとえば、世の中には自分より年下や年次の低い社員、職位が下の担当者、女性社員などを「この子」「うちの子」と呼ぶ人がいる。

 悪気なく、かつ親しみを込めて使っていると思われるが、「子」なる表現にも注意が必要だ。
 筆者は旧態依然の組織文化を匂わす行為や言動が放つ空気を「レガシー臭」と呼んでいるが、「子」なる表現も十分にレガシー臭を漂わせているのだ。

「うちの子」が周囲にもたらすマイナス印象

「“うちの子”と呼ぶのは社員を家族や子どものように思っているから」

 冒頭の指摘を読み、そう反論したくなった人も多いだろう。
 たしかに、その気持ちはわかる。
 だが発言者がそう思っていても、その光景を見た社外の人は、このように感じるかもしれない。

 ・この会社は若手や女性を下に見たり弱者扱いしたりしているのでは
 ・この会社の経営陣や管理職は自分が偉いと勘違いしているのでは
 ・上意下達が強い社風なのでは
 ・お取引先などに対しても横柄に振る舞うのでは

 その会社がどんなに先進的な取り組みをしていても、風通しのよさをPRしていても、その一言の裏に見える悪気のない上下意識が、周囲に疑念を抱かせる。体育会系気質というか、学生のノリが抜けきっていない体質、ハラスメント気質の香りを感じてしまう人さえいる。

 組織の見られ方を決めるのは、他ならぬ他者である。
「この子」なる言葉を発した結果、社外の人に組織体質の古さを感じ取られて警戒されたり、ダイバーシティ&インクルージョンが浸透していない企業だと思われる。これは企業経営上マイナスに働くことはあっても、プラスになることはない。

誰も指摘してくれないまま、体質が古くなっていく

 レガシー臭の払拭はなかなか難しい。たとえ本人たちが気にしていない、あるいは納得していたとしても、外からの見られ方で損をしてしまう。
 そして多くの人は「“この子”って呼び方、やめたほうがいいですよ」などと助言してくれない。余計なお世話だと思われ、相手との関係性を悪化させかねないからだ。

 組織の口ぐせは体質を創る。
「この子」「うちの子」の多用が、若手などを下に見る意識を強めてしまい、経営陣や管理職の偉そうな振る舞いを助長する。言われた本人も「自分たちは未熟だ」と感じ、主体性を奪われる。「子ども扱いされている」「バカにされている」と感じて辞める人もいる。
 社外だけでなく、メンバーのエンゲージメント(帰属意識や愛着)にも大きく影響するのだ。

そっと、教えてあげよう

 あなたの会社の役職者や、年次が上の人が社員に対して「この子」「うちの子」なる表現を使っていたら。そのときは後でそっと、こう伝えてみよう。

「バカにされているみたいで、言われた方は気持ちよくないです」

「うちの会社が古臭い会社だと思われてしまいそうで気になります」

「私は別にいいのですが、お客様やお取引先が引くと思います」

 筆者も悪気なく「この子」「うちの子」と発する経営者や部門長などに対して、「“この子”“うちの子”って言い方は、やめたほうがいいですよ」とそっと耳打ちすることがある。勇気を持って、伝えよう。

一歩踏みだす!

 ・「この子」「うちの子」は恥ずかしいからやめてくれと言う

(本稿は、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)

沢渡あまね(さわたり・あまね)
作家/企業顧問/ワークスタイル&組織開発/『組織変革Lab』『あいしずHR』『越境学習の聖地・浜松』主宰/あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOO顧問/プロティアン・キャリア協会アンバサダー/DX白書2023有識者委員。日産自動車、NTTデータなどを経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『職場の問題地図』(技術評論社)、『「推される部署」になろう』(インプレス)など著書多数。