「読書嫌いの子どもが食いつくように読んでいます」
そんな感想が寄せられているのが、「すごい」と「やばい」の両面から日本史の人物の魅力に迫った『東大教授がおしえる やばい日本史』です。本書の監修をつとめた東京大学史料編纂所教授の本郷和人先生によると、学校の歴史の授業で出てくる「すごい」偉人たちも、実はものすごい失敗をしたり、へんな行動をしたりした「やばい」記録がたくさん残っているそうです。
今回は、大垣書店麻布台ヒルズ店(東京・港区)で8月に開催された、本郷先生のご登壇イベント「親子で歴史がもっと好きになる『やばい日本史』夏休み特別授業」(ダイヤモンド社「The Salon」主催)の模様をダイジェストでお届けいたします。
(構成/ダイヤモンド社コンテンツビジネス部)

「読書嫌いの子どもが食いつくように読んでいます」との声も!子どもたちが熱中している異色の歴史本で紹介されている、天才軍師・竹中半兵衛の「少し下品なエピソード」とは?Photo:Adobe Stock ※写真はイメージです

竹中半兵衛がその名を轟かせた「やばい逸話」

――竹中半兵衛は、「天才軍師」とも呼ばれる、人気の高い戦国武将ですよね。

本郷和人(以下、本郷) そうですね。竹中半兵衛は自分で才能を現わし、豊臣秀吉に仕えた軍師です。

 彼は大志を抱いていた人物で、自分のサインに「千年鳳」と書いていました。「千年鳳」というのは、フェニックス、すなわち鳳凰という伝説上の鳥のことです。そういう言葉を自分のサインに使うということは、彼はすごく学があって、野心的だったという証です。

 でも、秀吉が偉くなる前に、彼は36歳で死んでしまったので大きな大名にはなれませんでした。しかし、非常に優秀な人だったといわれています。

――そんな半兵衛にも、一風変わったエピソードがあるそうですね。

本郷 そうなんです。半兵衛の最初の主君は、美濃の国(現在の岐阜県南部)の大名・斎藤龍興ですが、その龍興がかわいがっていた家臣・斎藤飛騨守が、やぐらの上から半兵衛の顔におしっこを引っかけてバカにするという事件が発生しました

 この屈辱的な仕打ちに怒った半兵衛はその数日後、たった16人の部下を引き連れて龍興の岐阜城を攻め落とし、飛騨守を斬り殺してしまいました。この話は、織田信長の耳にも届き、「すごい武将がいる」ということで有名になったそうですよ。

――この一件がなければ、その名が轟くこともなかったかもしれないですね。

本郷 そういうことです。人の恨みというのはこわいですね。

――それにしても、わずか16人で城を乗っ取ったという話には驚きました。

本郷 人間の心理のスキを突いたんでしょうね。失敗したら命を失うわけですから、ものすごく思い切った行動だと思います。

 ちなみに、半兵衛にはもう1つトイレ関連の話があります。あるとき、軍議の途中で部下がトイレに行こうとしたところ、半兵衛は「何をしている。今は武士にとって一番大切な戦の会議の場である。その場で用を足せ」と言ったそうです。なかなか厳しい人だったんですね。

 だから皆もトイレに行かないで、今座っているところでしてくださいね。

――もちろん、冗談ですよ! トイレに行って大丈夫ですからね(笑)。

真田幸村は「セミ人間」?

――つづいて、徳川家康を何度も困らせたという真田幸村についても、教えてください。

本郷 真田幸村(本名・信繁)はとても優れた武将でしたが、関ヶ原の戦いで西軍について敗れた後は、一時期ニートになっています。要するに、侍をやめて無職になったわけですね。

 今なら、アルバイトなど様々な仕事の口がありますが、当時の幸村には本当に仕事がありませんでした。なので、大名である兄にお金やお酒をたかるような手紙を書いています。

 マンガだと幸村はイケメンに描かれていますが、彼が出した手紙には「最近歯が抜けて、髪も真っ白になってしまいました」などと記されていて、ちょっと情けない姿のときもあったみたいですよ。

――でも、そんな状態から復活して、「大坂の陣」では徳川家康を切腹寸前まで追い詰めたんですよね?

本郷 その通りです。僕はよく、彼のことを「セミ人間」と表現しています。どういうことかというと、セミは何年間も地中で過ごして、地上に出てきたらわずか1週間ぐらいで死んでしまいますよね。

 関ヶ原の戦いに負けて無職になった幸村は、高野山のあたりで約14年も静かに暮らした後、大坂の陣が始まった途端に大坂城に入城して大活躍しましたが、結局は討ち取られてしまいました。

 なので、幸村が活躍したのはほんの短い期間なんです。そのライフサイクルがセミに似ているので、「セミ人間」ということです。

 でも、その活躍ぶりが非常に華々しかったからこそ、現代の僕たちでもその名を知っていますし、人気もあるわけです。そういう人生も悪くはないな、と僕は思います。

つづく

(本稿は、『東大教授がおしえる やばい日本史』特別イベントのダイジェスト記事です)

本郷和人(ほんごう・かずと)
東京大学史料編纂所教授。東京都出身。東京大学・同大学院で石井進氏・五味文彦氏に師事し日本中世史を学ぶ。大河ドラマ『平清盛』など、ドラマ、アニメ、漫画の時代考証にも携わっている。おもな著書に『新・中世王権論』『日本史のツボ』(ともに文藝春秋)、『戦いの日本史』(KADOKAWA)、『戦国武将の明暗』(新潮社)など。監修を務めた『東大教授がおしえる やばい日本史』はシリーズ78万部。最新刊『東大教授がおしえる さらに!やばい日本史』も発売中。