人々が定年引き上げに反対する理由

 人々が定年引き上げに反対する理由は、SNSで広く共感を得ている「三つの疑問」に凝縮されている。「定年まで生きているのか?」「定年まで、会社は存続しているのか?」「会社は定年まで働かせてくれるのか?」これらの問いは、現在の中国経済の実態と国民の不安を如実に反映している。

 コロナ禍後も中国経済は低迷を続け、失業率は高いままだ。特に若年層の失業率の高さは深刻で、最新(2024年8月)の若年層(16〜24歳、学生を除く)の失業率は18.8%と、昨年12月以来の高水準だった。2024年夏には1179万人もの大学新卒者が就職市場に参入し、「卒業=失業」が常態化。多くの若者がデリバリー配達員やライドシェア運転手として生計を立てている。

 さらに、経済の先行き不透明感から企業の大規模人員削減が相次ぎ、中年サラリーマンの失職も増加している。35歳を超えると解雇リスクが高まり、再就職が困難になるという「35歳の壁」の存在も、労働者の不安を煽っている。

 つまり、多くの人々が年金受給年齢に達する前に失業し、収入がゼロになる可能性を懸念している。それにもかかわらず、年金保険料を払い続けなければならないという矛盾に直面しているのだ。この期間の生活をどう維持するかという大きな不安が、定年延長への反対の根底にある。

 そしてもう一つ大きな理由が、中国の、特にブルーカラーの人たちの労働への考え方によるものだ。一日に8時間までとか、週休二日といった労働時間の上限を設けることなく、体力がある限りは目いっぱい働いてお金をため、老後はのんびり過ごしたいと考える人が多い。体を酷使してきた分、50歳を超えると無理がきかなくなり、仕事をしようにも体が動かない。それなのに年金を受け取る年齢が上がってしまっては、人生設計が狂ってしまう……という思いも強いのだ。