背景にあるのは「年金破たん問題」、官と民との不公平感

 政府が国民の反対を押し切ってまで定年延長を決定した最大の理由は、「年金破たん問題」だと指摘されている。中国社会科学院の唐鈞研究員は、「政府がこの法案を推進する最大の原因は、労働力人口の減少や少子高齢化の加速などではなく、年金積立金がもうすぐ底をつくからに過ぎない」と分析している。同研究所の予測によると、高齢者人口の急速な増加に年金財政が追いつかず、2035年には年金積立金が底をつく可能性があるという。その不足額は日本円にして約8兆~12兆円に上ると見込まれている。

 さらに、国民の不満を増幅させているのが、公務員などの「官」と一般企業に勤める「民」の年金制度の格差だ。中国では「双軌制」と呼ばれる二重制度が存在し、公務員と一般企業の従業員とで年金保険料の負担額や受給額に大きな差がある。公務員の場合、年金保険料は全額政府負担で個人の負担はゼロ。一方、一般企業の従業員は本人が8%、企業が20%を負担する。年金受給額も、公務員が退職前賃金の80〜90%程度であるのに対し、一般従業員は40〜50%にとどまっている。この不公平な格差の解消なしには、国民の理解を得ることは難しいだろう。

 「官」の人々は、年金保険料の納付期間が伸びたところで痛くもかゆくもない。そして今回の変更を支持しているのは、政府の一部の権力者だ。彼らは、権力の座にとどまることで、さまざまな利益を得ることができるからである。