「それがわかんないんですよ。いきなり怒り出すんです。だから怒られたという記憶しかない。なぜ怒っているのか、という説明があまりなかった。というより、ほとんどなかった。そもそも普段から、突然、アレ、どうなった?とか言うんです。言われたほうは、なんのこと?となる。父の話には主語や目的語がないんです」

 なぜという説明がないのは、津村の回想と同じだ。今思うと……と、司は思案するようにつけ加えた。

「死に物狂いで小説を書いていましたからね。根を詰めている状態というのは、何を考えているのか、思考の過程は常人にはわからない。父にしてみれば、数時間前からずっと考えていたことで、我慢に我慢を重ねて、最後の最後に爆発しかないと怒ったのかも。前段階がわかれば、それは当然怒るよねということになったのかもしれません。それがいきなり怒るから気難しいということになってしまって、本当はシンプルな人だったのかもしれません」

 吉村の影響なのか、そういうところが自分にもあると司は言う。

子供を犬と同列にしつけた
吉村昭流の子育て術

 子供のしつけについては、吉村に明確な持論があった。