しかし、今になってわかるのは、幸せをつくるために重要なのは、人と人との関係性だということです。煩わしいと感じる人間関係と、ありがたく温かいと感じるコミュニケーションは、コインの裏と表だったのです。私はずっと、この煩わしさを捨てていく社会をつくれば、ありがたさと温かさだけが残ると思って働いてきました。ですが、煩わしさを捨てることは、温かさも一緒に手放すことだったのです。

 いや、現代社会には国境を超えたつながりがあると言う人がいるかもしれません。

 確かに、インターネット、そしてSNSが登場したことで、何百、何千、何万人と、対面しなくとも人とつながることができるようになりました。

 それでも、実際に人と会うことで得る情報量は圧倒的です。文字で送る「おはよう」の情報量は8ビットなのに対し、対面で2秒間相手の顔を見て「おはよう」と言うと、視覚情報だけでおよそ7370万ビットの情報が取り交わされます。「おはよう」と挨拶するだけなのに、なんとなく相手の機嫌や、身体の具合が悪そうだなとか、今日はとても声が明るいなとか、言葉以上の情報も入ってきます。

 ネット上では自分の言いたいことだけを言えるので気楽ですが、そのコミュニケーションだけで持続可能な社会がつくっていけるとは私には思えません。