「あなたの職場は、上が決めなくても各自で仕事を進められますか?」
そう語るのは、これまでに400以上の企業や自治体等で、働き方改革、組織変革の支援をしてきた沢渡あまねさん。その活動のなかで、「人が辞めていく職場」には共通する時代遅れな文化や慣習があり、それらを見直していくことで組織全体の体質を変える必要があると気づきました。
その方法をまとめたのが、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』です。社員、取引先、お客様、あらゆる人を遠ざける「時代遅れな文化」を変えるためにできる、抽象論ではない「具体策が満載」だと話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「“自分たちで決める”経験のない職場」の問題点について指摘します。

人が辞めていく「時代遅れな組織」の職場で「圧倒的に足りていない経験」・ワースト1上が決めなくても各自で進められるか?(イラスト:ナカオテッペイ)

指示待ちの職場、自らハンドルを握る職場

 世の組織には、自分たちで主体的に意思決定した経験や発想さえ持っていない人たちが存在する。

 たとえばあなたの職場で、既存製品を今までとは違った販売方法で売ってみたいとする。誰かが決めなくても、各自が自分で思考・行動し、ものごとが前に進む。もしくは誰かが細かく決めてあげないと、ものごとが進まない。どちらの反応が想定されるだろうか。

 リーダーが事細かにタスクを分解し、手順やオペレーションを決めてあげないと誰も行動しない。ものごとが前に進まない。そのような組織もある。

メンバーの主体性を奪う4つの要因

 誰かが決めてあげないと、ものごとが前に進まない職場。これは単にやる気や待遇(そこまで十分な報酬をもらっていないから指示待ちに徹する)だけの問題ではない。組織の思考習慣や行動習慣、それを支える文化の問題によるところも大きい。主な要因を4つ挙げる。

①権限委譲の問題
 まず権限設計の問題だ。リーダーやマネージャーがすべての意思決定権を握った結果、メンバーは意思決定をしたことがない。トップに権限を集中させるのは、メンバーの主体性を育む上でもリスクを伴うのだ。

②能力の問題
 もちろん能力不足も否めない。主体的に思考し行動するためには、ロジカルシンキングやクリティカルシンキングなど思考を組み立てて合意形成するための能力、プレゼンテーション能力、傾聴力、対話力などが欠かせない。それらの能力開発がメンバーに施されているだろうか。あるいは日常の業務で身につけ、発揮する機会があるだろうか。

③経験の問題
 そもそも通常業務が、すべて上や前工程からの指示内容を忠実にこなすスタイル。主体的に思考し、主体的に行動した経験がない。だから心も体も動かない。自ら思考し行動する発想さえない。

④風土の問題(心理的安全性)
 自己判断で意見提案や行動をすると「勝手なことをするな」と叱責される。または後ろ指を差される。こうして「おとなしくしている」「指示があるまで動かない」マインドがすくすくと育つ。そういった姿勢を評価する人事評価制度の問題によるところも大きい。

指示待ちの姿勢は、統制管理主義な体質を強める

 一方で、真逆の組織もある。プロセスや進め方の大枠はリーダーが決めるにしても、各担当者が自分で思考して行動する。未知の課題や、誰が担当すべきか迷うタスク、いわゆるグレーゾーンが発生したときはリーダーに相談して判断を仰ぐ、または対話して解決する。こうしてリーダーも担当者も、自分たちでハンドルを握って前に進んでいく。

 指示待ちが前提となっている空気のままでは、統制管理主義は維持または促進され、失敗を恐れ、挑戦や行動に対して後ろ向きな体質が強化されていく。

 とはいえ組織は急には変わらない。人事評価制度を変えるにも時間がかかる。指示待ち、思考停止・行動停止した組織風土を少しずつ変えるにはどうしたらよいのだろう。

自分たちのことから、自分たちで提案してみる

 まずは小さく、それこそあなたの半径5m以内から自分たちで決めて、自分たちで行動する体験を創っていこう。

 たとえば、自部署のオフィスのレイアウトを変更する際、どんな仕組みや仕掛けがあったらコミュニケーションが活性化するかなど、自分たちで話し合って決めてみてはどうだろうか。自分たちが成果を出すための環境を自分たちで決める。なんらおかしい点はなく、考えてしかるべきことである。
 そのためには総務担当者と話をして、現場で決める権限をもらおう。予算は総務部門が握っているにしても、意思決定は現場に任せてもらうのがよい。

「本棚がほしいです。休憩時間に眺めながら、チームメンバーや他部署の人と対話できて楽しいかも」

「花粉症で春は出社がつらいので、空気清浄機を置きたいです!」

「コーヒーサーバーを置きましょう。気分転換にもなると思います!」

 こうして自分たちでハンドルを握ってクルマを動かす体験、すなわち自分たちで小さく意思決定をしてものごとを動かす体験をしてみよう。

 一歩踏みだす!

・自分たちで意思決定して行動する体験を創る
・自部署のレイアウトや設備など、半径5m以内の小さなテーマから始める

(本稿は、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)

沢渡あまね(さわたり・あまね)
作家/企業顧問/ワークスタイル&組織開発/『組織変革Lab』『あいしずHR』『越境学習の聖地・浜松』主宰/あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOO顧問/プロティアン・キャリア協会アンバサダー/DX白書2023有識者委員。日産自動車、NTTデータなどを経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『職場の問題地図』(技術評論社)、『「推される部署」になろう』(インプレス)など著書多数。