「あなたの職場では、ポジティブでいることを強要されていませんか?」
そう語るのは、これまでに400以上の企業や自治体等で、働き方改革、組織変革の支援をしてきた沢渡あまねさん。その活動のなかで、「人が辞めていく職場」には共通する時代遅れな文化や慣習があり、それらを見直していくことで組織全体の体質を変える必要があると気づきました。
その方法をまとめたのが、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』です。社員、取引先、お客様、あらゆる人を遠ざける「時代遅れな文化」を変えるためにできる、抽象論ではない「具体策が満載」だと話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「ポジティブを強要する職場」の問題点について指摘します。
ポジティブであることを強要する組織
職場の空気感について考える際、見落としがちなのが「ポジティブの功罪」だ。
職場ではとにかくポジティブであれ。なぜならネガティブな発言は組織やチームの空気を淀(よど)ませるから。全体の士気を下げるから。そのような空気を創る経営者やマネージャーもいる。
ある部分では賛同する。ポジティブな発言が多い職場の方が場の空気も目に見えて明るくなるからだ。不平・不満・叱責や悲鳴(?)が飛び交う職場を快適に感じる人、そこで働き続けたいと思う人は少数派だろう。
一方で、ネガティブは一切ダメとし、ポジティブな行動や発言だけをメンバーに強要するのも考えものである。
筆者はかつて、ポジティブ思考強めのマネージャーのもとで働いたことがあるが、正直、しんどいと思うことが多かった。そのマネージャーのポリシーは「ポジティブであること」。それはよいのだが、チームや他部署の誰かが不平・不満・弱音などを口にするたび、「ネガティブなことを言うな」と諭(さと)していた。
・本音や事情を言いにくくなる
・健全な問題提起や改善提案さえしにくくなる
・裏で不平不満を言うようになる
ポジティブの強要を繰り返されると、このようなネガティブな空気がチームに醸成される。ネガティブを許容しないマネジメントは「見た目は明るい独裁国家」のような組織風土を創りかねないため要注意である。
聖人君子すぎる人が窮屈さを生むことも
すべてのものごとをポジティブに受け止める。そんな聖人君子になれたら理想的だ。しかし誰もがつねにポジティブでいられるほど強いわけではない。
意志の力が強い聖人君子のような人が経営者やマネージャーをしている組織やチームは、メンバーが本音や弱音を言いにくい。言っても共感されないばかりか「そんなネガティブでどうする」と諭されるからだ。それでは改善すべき点も顕在化しない。
また、マネージャーになるハードルを上げてしまう。
「つねにポジティブに考えて行動できる人でないと評価されないのか」
「メンタルが強靭な人ではないとマネージャーになれないのか」
メンバーの組織に対するエンゲージメントを下げ、マネージャーになりたい人を遠ざけてしまう。そもそもポジティブを押しつけること自体、その良し悪しにかかわらず、多様性に逆行した横並び主義を助長している。
ネガティブなこと「も」言える空気、どう創っていく?
ポジティブ思考は大事だが、ネガティブなこと「も」言い合える環境を創りたい。個人のストレス軽減やメンタルヘルス(心の健康)の安定に寄与するのはもちろん、組織の問題や課題が顕在化しやすくなり組織の健康維持にも寄与する。
ネガティブな発言も受け入れてくれるマネージャーに対し、メンバーは「この人は自分たちの気持ちをわかってくれる」と信頼を寄せるようにもなるだろう。聖人君子すぎる人には近寄りがたい。メンバーの心理的安全性を高めるためにはマネージャーも弱みを見せたり、ネガティブな発言を受け止めたりといった行動も求められるのだ。
ではネガティブなこと「も」言い合える空気を、どのように組織やチームに創っていったらよいだろうか。3つの方法を提示したい。