電力崩壊 業界新秩序#9Photo:PIXTA

電力危機に直面し、原発の是非はさておき「もっと原発が動けば供給サイドは安心」という意見は少なくない。そんな中で、原子力規制庁元幹部が原発稼働を促進させる妙案を示しているが、なぜかこれに「電力会社はいい顔をしない」という。特集『電力崩壊 業界新秩序』(全9回)の最終回では、この妙案の中身を解説する。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)

原子力規制庁元幹部が
原発稼働の妙案を提唱

 多くの原子力発電所の出力は1機当たり100万キロワット前後もあり、火力発電所のように燃料(液化天然ガス〈LNG〉など)調達に関するリスクも低い。

 原発の是非や将来的な原発依存の在り方はさておき、足元の電力危機に対し「もっと原発が動いていたら電力供給の不安は和らぐ」という意見は少なくない。原子力規制委員会の新規制基準での審査通過や地元の同意など、安全・信頼の大前提は変えない上で、だ。

 東日本大震災以降、これまでに再稼働を果たした原発は10基。ただし岸田文雄首相が電力危機を前に示した、「今冬に最大9基の原発稼働」という方針がニュースになるほど、再稼働を果たしても運転停止になる原発が少なくない。

 再稼働を果たした原発が停止する背景を見てみると、テロ対策施設の工事完了の遅れに伴う停止がある。

 テロ対策施設の正式名称は「特定重大事故等対処施設」で、意図的な航空機衝突などのテロに備えた施設。新規制基準で設置が義務付けられている。ただし猶予期間があり、安全対策工事の詳細設計をまとめた「工事計画」の認可から5年とされている。

 例えば関西電力美浜原発3号機は2021年6月に再稼働を果たしたが、「5年猶予ルール」の間に工事を完了できず、同年10月に運転を停止した(22年9月に運転再開)。また関電大飯原発3号機は今年12月、九州電力玄海原発3号機は23年1月、玄海原発4号機は同2月に運転再開を予定しているが、いずれもテロ対策施設の完成が前提条件となっている。

 さらに今後、再稼働を果たす原発が出てきても、やはりテロ対策施設の工事完成期限が運転継続のネックとなる可能性がある。

 そこで、原発再稼働の許認可の審査に携わってきた原子力規制庁元幹部が妙案を提唱した。電力会社にとって悲願のはずの原発稼働なのだが、「電力会社はいい顔をしない」という。それはなぜなのか。