まずは伏見の氏神様の御香水から
伏見大手筋商店街を東に向かい、京阪と近鉄の線路を越えると、左手に見えてくるのが、伏見の氏神様である御香宮(ごこうのみや)神社です。伏見の銘酒に浸る前に、道中の無事を祈念しておきましょう。
この社は水にゆかりがあります。平安初期の862(貞観4)年、この地にえもいわれぬ芳しい香りを放つ泉が湧き出しました。飲めばあらゆる病が治ると評判を呼び、時の帝であった第56代清和天皇から「御香宮」の名を賜ったという逸話が御香宮神社の起源です。御祭神は、第14代仲哀天皇后の神功皇后。才色兼備に加え、ご懐妊中に三韓征伐も成し遂げた強きスーパーウーマンであることから、安産と子育ての神様としても信仰を集めています。
本殿のすぐそばにこんこんと湧き出る「御香水」を手のひらに受けてひと口飲んでみると、クセのない、やわらかな口あたり。日本名水百選に選定されているのもうなずけます。隣接する社務所では、「お持ち帰り用ペットボトル」を授与してもらえますので、道中のお供に水を汲んでおきたい方はお求めを。御香水に浮かべると、神功皇后のお告げが浮かび上がる「水占い」も試してみてはいかがでしょうか。
御香宮神社の表門の西側には、「黒田節」誕生の地の立て看板が。「酒は飲め飲め飲むならば 日の本一のこの槍を 飲みとる程に飲むならば これぞまことの黒田武士~♪」という冒頭のワンフレーズを酒席で耳にしたことがある方も少なくないのでは。
賤ケ岳の七本槍の一人として豊臣秀吉に仕え、徳川時代には安芸広島藩主と信濃高井野藩主を務めた福島正則が、自身の屋敷で酒宴を開いたときのこと。正則から大きな鉢になみなみと注がれた酒を飲み干すよう促された福岡藩黒田家の家臣である母里太兵衛(もりたへえ)は、「あの槍をいただけるなら」と条件を提示。正則が酔った勢いでOKと答えると、太兵衛は見事に鉢一杯の酒を飲み干し、槍を福岡藩に持ち帰りました。
しかしその槍は、主君である秀吉公から賜った名品。酔いが覚めて正気に戻った正則は、幾度も返してくれと交渉したものの、叶うことはありませんでした。お酒はほどほどに、と肝にも銘じつつ、歩みを進めましょう。