「お寺の奥さんになったら、外車はもう乗らないよね……」
両親はさらっと釘を刺してきた。私からすれば、世間体だけのために人生に制限をかけるなんて馬鹿らしかったが、逆に言えばそれぐらい徹底してお寺のために尽くしてきた両親だった。だから、趣味を生かしてお寺を切り拓こうという私たちのこざかしい態度に、心底ムカッ腹が立っていたはずである。郷に入っては郷に従えということわざのように、お寺に入るならお寺の色に染まらなければならない、というのが両親のスタンス。私の結婚相手にも、キャリアをすべて捨てて、フランス車も海外旅行もやめて、つつましい生活をしてお寺のために尽くす覚悟を求めていた。
「跡継ぎ出産」
というプレッシャー
両親の生き様に敬意を払いつつも、私は一歩も引くつもりはなかった。
機が熟するのを待つのも一手だったが、私たちのほうにも悠長に年月を重ねていられない事情があった。
世間一般には「おひとりさま」で人生を終えていくのも許容される時代だが、お寺社会だと周りがそれを許さない。
お寺の跡継ぎ、つまり男児を出産することが求められるのだ。