結婚披露宴に列席したお坊さんや檀家さんが、祝福のスピーチで「お寺の奥さんになったら、子供を産まなあかん。それも男の子を産んではじめて一人前や」みたいな時代錯誤のハラスメントがバリバリ現役の世界。年齢的に新婦の出産が難しいような場合には、「夫婦仲睦まじいのはいいけれど……」と容赦なく陰口をたたかれたりする。檀家さんとしては、お寺が代々続いていくことを願っているにすぎないのだが、奥さんにとってはたまったものではない。

 結婚を決めた時、私は27歳で、相手は34歳。跡取りが求められるお寺事情には感づいていたのだろう。「お坊さんと結婚したら、子供を産まないといけないよね」「40歳になってから子供を産むプレッシャーを受けるのはツラい」と怯えていた。「何年も待つぐらいなら別れたい」とも言っていた。

 一方で私のなかにも、タイムリミットが近づいているという焦りがあった。

 30歳を過ぎれば、私に対しても「そろそろ身を固めないと……」とプレッシャーがかけられ、お見合い攻勢に見舞われるに違いなかった。全国のお寺に出入りしている法衣店や仏具店が世話役となって、「あそこのお寺の娘さんをここの息子さんに」と見合いが組まれるのも、この業界ではよくある話。うっかり断れば角が立ちかねないし、うまく結婚に至ればめでたしめでたしだが、今度はお寺社会のロジックから一歩も抜け出せなくなってしまう。