「あなたの職場の人たちは、相手の話をきちんと聞かずに行動していませんか?」
そう語るのは、これまでに400以上の企業や自治体等で組織変革の支援をしてきた沢渡あまねさん。その活動のなかで、「人が辞めていく職場」に共通する時代遅れな文化や慣習があると気づきました。
それを指摘したのが、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』。社員、取引先、お客様をうんざりさせる「時代遅れな文化」を指摘し、現場から変えていく具体策を紹介。「まさにうちの会社のことだ!!」「これって、おかしいことだったの!?」と、多数の反響があり話題に。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「自己判断で行動する職場」の問題点について指摘します。
話を聞くことができない人たち
筆者が最近、ある企業の経営者(A氏)から聞いたエピソードを紹介する。
A氏は、連携関係にある他社の経営者(B氏)に対し、仕事の進め方について気になる点をメールで指摘した。両社は人材交流も盛んであり、決して縁遠い関係ではない。一緒に進めているプロジェクトもある。A氏にB氏を責める意図はなく、会社対会社で良好な関係で仕事を進めていくために、一緒により良いやり方を話し合っていきたいと考えていた。
そこで、現場の担当者同士の関係が悪くならないよう、まずは経営者同士で腹を割って話をしたいと考え、意図も伝えた上でこう切り出した。
「まずは経営者同士で、ざっくばらんに対話をしたい」
ところがB氏からは一向に返事がない。
翌日になって、B氏から回答が届いた。
そのメールには、すぐさま社内の関係各所の責任者にヒアリングおよび事実確認したこと、同社としての見解、および会社として真摯に改善検討をする旨が記されていた。
その公式見解の説明を受け、A氏は落胆した。苦言を呈して、すぐに課題解決してほしかったわけではない。対話による共創で解決していきたかったのに。
「私は、まるでお騒がせクレーマーじゃないですか……」
A氏は肩を落とした。
迂闊なことが言えない組織
まずは相手とじっくり対話をして、お互いの背景や意図を確認しつつ、アクションを進める。社外との会話に限らず、社内におけるコミュニケーションにおいてもこの呼吸ができていない組織は多い。聞いたつもりになって、自己判断だけで勝手に行動してしまう。
聞けば先ほどのB氏の会社は、社内のコミュニケーションも同様であるとのことだった。マネージャーとメンバーの1on1ミーティングなどで誰かの名前が出ようものなら、すぐその周りの人に対するヒアリングと事実確認が入るそうだ。
こうして、迂闊なことを言えない組織文化が醸成される。
人の本心は聞かないとわからない
もう一つ、切ないエピソードを紹介する。筆者がかつて勤めていた製造業の職場での話だ。その部署は、今思えば割と自分たちの思い込みでものごとを進めてしまう傾向が強かった。
あるとき、Cさんが中途入社で加わった。Cさんの前職はIT企業。IT関連の資格もいくつか保有している。その経験が買われたのか、Cさんは早速ITに関連する業務を多く任された。
IT業界出身だから。ITが得意だから。そのような理由で他部署や他チームから、ITに関する問い合わせや相談がCさん宛てに入ることも増えてきた。Cさん本人も前職の知見や能力を即戦力で発揮できてさぞ満足しているだろう……と思いきや日に日に元気がなくなっていく。
気になって、Cさんに声をかけ話を聞いてみたところ、彼女の口をついて出てきたのは意外な一言だった。
「私はITの仕事に疲れて転職した。なのに、ここでもITの仕事ばかり任される。正直気が重い。ブランディングやマーケティングなど新たな領域の仕事にチャレンジしたくて転職したのに……」
おそらく筆者を含む周りの人たちは、CさんはITの仕事を好んでやりたがっていると思っていた。それがCさんを追い詰めてしまっていたとは。
対話のない一方的な決めつけでものごとを進めてしまうことがいかに危険か、筆者はこの出来事を通じて痛感した。その後Cさんはマーケティング関連の担当になり、表情も明るくなった。
対話を省いた拙速すぎる(なおかつ一方的すぎる)アクションは、組織内においてはマネージャーとメンバー、もしくはメンバー同士の、組織外においては会社と会社の壁を創る。