「高級」だけが美食ではない。美食=人生をより豊かにする知的体験と教えてくれるのが書籍『美食の教養』だ。著者はイェール大を卒業後、南極から北朝鮮まで世界127カ国・地域を食べ歩く浜田岳文氏。美食哲学から世界各国料理の歴史、未来予測まで、食の世界が広がるエピソードを網羅した一冊。「外食の見方が180度変わった!」「食べログだけでは知り得ぬ情報が満載」と食べ手からも、料理人からも絶賛の声が広がっている。本稿では、その内容の一部を特別に掲載する。

【食べログ?】【ミシュラン?】世界一の美食家が一目置くレストランランキングPhoto: Adobe Stock

レストランを見つける手段とは

 食に興味がある人と初めて会うと、ほぼ必ず聞かれる質問があります。それは、「どこからレストランの情報を得ているんですか」「どうやって行くべきお店を選んでいるんですか」です。

 日本でレストランの情報を得る手段としては、食べログ、ミシュラン、Googleビジネスプロフィール(Googleマップ)、インスタグラムが挙げられると思います。また、レストランガイドの最初の入門編としては、ミシュランガイドは有用だと思います。

 一方、ガストロノミー(美食)の世界では、近年、「世界のベストレストラン50」が存在感を増しています。

 世界各国の1000人以上の匿名評議員が、自分がベストだと思う世界のレストランに投票します。その集計結果が、第1位から50位まで発表されるというものです。また個別のレストランやシェフに与えられる特別賞もありますし、最近は第51位から100位のリストも事前に発表されます。

 評議員は、27の地域に分かれ、40人ずつ任命されています。たとえば日本はひとつの国でひとつの地域ですが、アジアだと中国本土と韓国がひとつの地域、東南アジアは北と南の2つの地域に分けられています。

 評議員の属性としては、34%がシェフとレストラン関係者、33%がフードライター、残り33%が世界を食べ歩くグルメ、という構成。ジェンダーバランスは50:50、かつ評議員の4分の1が毎年入れ替わるというルールになっています。

 ここ数年はコロナ禍の影響でイレギュラーでしたが、基本、評議員は最大10票投じることができ、そのうち6~7票までは自分の地域のレストラン、それ以外は他の地域のレストランに投じることができます。

「世界のベストレストラン50」は
美食のオリンピック

 このルールが意味するところは何か。それは、たとえ日本の評議員が日本のお店を応援したいと思ったとしても、最大6~7票までしか投じることができない。

 日本はひとつの国がひとつの地域になっていて、評議員が40人いるのは有利だとしても、それ以上に日本はレストランのレベルが高くて候補が多すぎるので、票がどうしてもバラけてしまう。日本のお店が上位に入ろうと思うと、海外票をいかに獲得できるか、が大事になってきます。

 逆に、高水準なお店が少ない地域の場合、特定のお店に票が集中するので、有利になることもある。結果として「世界のベストレストラン50」は、レストランの地域がばらけるような設計になっているのです。

 すべてのランキングやリストは、どう評価するかの審査方法やアルゴリズムによってどういうお店が選ばれるか決まってきますが、僕の見解では、「世界のベストレストラン50」は、オリンピックに近い、と思っています。

 オリンピックは、ある競技において世界ランク上位の何十人が出場できる、というものではありません。

 個人競技の場合、国際競技連盟が定めた基準に基づいて出場枠が各国に配分され、国ごとに選手が出場を争います。結果として、その競技の強豪国でぎりぎり出場を逃した選手のほうが、そうでない国で出場を決めた選手より成績が上、ということはざらにあります。

日本の店には不利? しかし…

 アジアでいうと、日本は強豪国に当たります。OADは、昔アジアに日本を含めてひとつのランキングを発表していたのですが、トップ50のうち約8割が日本のお店、という結果になってしまいました。これでは、あまりに偏りすぎていると主宰者が考えたのか、その後、アジアと日本は別のランキングになりました。

 日本は、OADで唯一、ひとつの国でひとつのランキングを持っているのですが、それくらい、高水準なのです。僕は、アジアが別のランキングになってよかったと思います。そのことで、光が当たるレストランが増えたからです。

 僕は、「世界のベストレストラン50」は、世界のレストランシーンの多様性を祝福する場だと考えています。

「どうして日本のレストランは少ないのか」「日本のこの店よりも、海外のこの店のほうがランキングが上というのはおかしくないか」という声も聞こえてきますが、そもそもそういうアルゴリズムになっていないので、順位を気にしても意味はない。

 ガストロノミーの発展途上国で頑張っているレストランを発見し、その努力を称え、応援する。それが、このリストの主な意義だと個人的には思っています。

(本稿は書籍『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』より一部を抜粋・編集したものです)

浜田岳文(はまだ・たけふみ)
1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国・イェール大学卒業(政治学専攻)。大学在学中、学生寮のまずい食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するためフランス・パリに留学。南極から北朝鮮まで、世界約127カ国・地域を踏破。一年の5ヵ月を海外、3ヵ月を東京、4ヵ月を地方で食べ歩く。2017年度「世界のベストレストラン50」全50軒を踏破。「OAD世界のトップレストラン(OAD Top Restaurants)」のレビュアーランキングでは2018年度から6年連続第1位にランクイン。国内のみならず、世界のさまざまなジャンルのトップシェフと交流を持ち、インターネットや雑誌など国内外のメディアで食や旅に関する情報を発信中。株式会社アクセス・オール・エリアの代表としては、エンターテインメントや食の領域で数社のアドバイザーを務めつつ、食関連スタートアップへの出資も行っている。