新橋で「ひとりグルメ」は通用するのか?
新規事業戦略の定石では「新ビジネス・新顧客」という飛び地を狙うのが一番難しいとされています。その難易度のビジネスモデルだということが『すきはな』の難しさです。
とはいえサラリーマンの聖地・新橋という立地で、かつ1分歩けばそこは銀座だという地の利を考えると、新しい顧客層の集客は単店としては容易でしょう。お店の前をサラリーマンだけでなく、富裕層もインバウンドの外国人も歩いているのですから。
新規事業の経営として、おそらくその次の課題となるのは「ひとりグルメ」というコンセプトにそれらの顧客層が合致しないことです。
この手の話はこの後、お店の側も痛いほど経験すると思われますが、想定できる話を挙げてみましょう。
まず富裕層の品のいいご夫婦が来店した場合、味には満足されるでしょうけれども奥様は「野菜が欲しかったな」と思うかもしれません。これは解決可能な課題ではあります。お店としては「豆腐サラダ」のようなサイドメニューを一品加えればいいからです。
次にサラリーマンの3人組が来店された場合。すき焼きは楽しいと思いますが、来店して30分でデザートとなると会食のもうひとつの目的である「会話を楽しむ」時間が足りません。
でも、彼らの視点での解決策としては「まずはビール」から始まってお新香をつまみながらしばらく会話を楽しんで、その後でおもむろに「じゃあお肉を焼いてください」という展開になるかもしれません。お店に対しては「おつまみの小皿メニューがいくつかあるといいな」と要望されるでしょう。
ここは経営判断が難しいところで、それに応じてサイドメニューを増やすと客の滞在時間が増えてしまいます。15席しかないカウンターのお店で滞在時間が平均30分か1時間かでは売上効率は倍の差が出ます。
『すきはな』は客単価が高めとはいえ『いきなりステーキ』同様に、他店と比べて料理を安価に提供するビジネスモデルです。高回転が維持できなければビジネスモデルとしては苦しくなるのです。
さらに難しいのがインバウンドです。アメリカ人の顧客を想定すると米沢牛のセット3850円は米ドルでは25ドル、3皿の1万450円でも70ドルですから料金としては造作もない出費で収まります。