「しょせん娯楽」というベクトルは大事にしているんですけれど、娯楽だけで生きていたらたぶん主戦場じゃないところで稼ぐ人になっていて、いまのこの地位はないと思うんですよね。同世代より少し上の芸人さんに認められたい一心で体を揺さぶられまくっていたら、どんどん体幹が強くなっていった。

 みんな、こういう他人の意見に左右されることをネガティブに捉えてしまいがちなんです。そのころは僕もそうでした。ところが乗り越えた時の飛距離というのはとんでもなかったんで、あの時代があってよかったなって思うんです。

他人の意見は否定するのではなく「乗り越える」

――乗り越えた時に出た飛距離とは、 M-1優勝ということですね。

石田:はい。NON STYLEがM-1優勝するなんて、誰も思ってなかったと思うんですよ。少なくとも関西の芸人は誰一人。僕らはほんま完全にノーマークで、当時はオードリーがずっと最有力やったと思います。

――とはいえ、あれから約15年経ちました。思えば遠いところまでいらっしゃいましたよね。いまやコンビとしても盤石の評価を得て、石田さんもNSCのバリバリの講師でいらっしゃいますが。

石田:はい、そうですね、ありがたいことに。これは揺さぶられた結果、意見が言えるようになったんです。昔は僕もただ酔うて批判して、自分を守るロープを張るための杭を打って回ってるだけやったんです、今にして思えば。

 あの頃のかっこ悪い自分には、お笑いを語るなんてできなかったですよ。周りにも「お前みたいなもんが無理や」って言われますし。でも、いまは僕自身、そうは捉えていない人たちの数も把握できて、この人たちのためにお笑いを語るのはあってもいいのかな、と思えてるんでね。

 それはやっぱり、自分の中で他人の意見を乗り越えてきたからかなと思ってます。受け入れないとか、否定するっていうのは簡単なんですけど、乗り越えたから今があるというのが率直な気持ちです。