自分自身を守ることが、子どもを守ることにつながる
滝乃:本書は女の子の親御さんが主な読者だと思いますが、「親自身が自分のケアをしたり、知識を深めたりする必要性」も多く書かれています。そういった点も意識されて書かれたんですか?
犬山:いえ、最初は本当に子どもについての不安からスタートしたんです。でも取材で専門家の先生に話を聞くたびに、なぜか編集さんとわたしが毎回号泣してしまって(笑)。取材のたびに「あれ、わたしたち自身が癒されている」と感じたり、「わたし、これでよかったんだ」「あのときのわたしは、悪くなかったんだ」って目の前が開けたりすることがたびたびあったんです。
滝乃:話を聞く中で、癒される部分があったんですね。
犬山:その感覚を本にも絶対入れたいと思って書いていました。そして気づいたんです。子どもを守るためには、自分自身を守ることがすごく大事だと。自分を守れなければ、子どもを守るのは難しい。そんな気づきがあったんですよね。
女性が置かれている現状は厳しい。でも、希望はある
滝乃:取材中、どこで泣きましたか?
犬山:本当に、全取材で泣きました(笑)。わたしは「女性が社会に愛されていない」と感じることが多かったんです。ジェンダーギャップはなかなか縮まらないし、性犯罪の取締り強化もすすまない。女性がまるで「生むための存在」や「少子化対策の手段」みたいに扱われる。そのたびに傷ついてきたんですよね。でも、上野千鶴子先生への取材を通して、過去の世代の方たちが、わたしたちのために道を切り開いてくれていたことに気づきました。わたしは、ものすごく大きな愛を受け取っていたんだなって。
滝乃:わたしが上野千鶴子先生のパートで印象に残ったのは、上野先生が女子高で講演をされた際のエピソードです。講演を聞き終わったある生徒さんが「今日の話を聞いて、私がこれから出ていく世の中は真っ暗だとわかりました」と言った、という。これを読んで「そんなことないよ!」って言いたくなったんですが、女性が置かれている現状を説明すると、そう思ってしまうのもしかたないなとも思いました。
犬山:そう。それで上野先生は「ごめんなさい」と生徒さんに謝るんです。10代の女の子にそんなことを言わせてしまって、申し訳ないと。でも、上野先生はこうも続けます。「私たち、おばあちゃんやお母さん世代は、女の子が大学に行くのをあたりまえと思う時代には生きていませんでした。あなたたちが大学に行けるようになって、昔より少しはよくなっています。職場でもあなたたちがお茶くみをしなくて済むようになりました。それは勝手に変わってきたわけではありません。誰かが変えてきたのです。私たちが変えてきたのですから、あなたたちにも変える力があるのです。」と。
滝乃:その言葉にはすごく希望を感じました!
犬山:子どもたちに希望をセットで伝えることは、本当に大切だなと思いました。そして、俄然やる気が出ました! わたしはNHKの朝ドラ『虎に翼』にも勇気と希望をもらっていて。上野先生のお言葉や朝ドラを通して「ひとりじゃないな」と思えるようになったんです。
滝乃:わたしも『虎に翼』には毎朝励まされていました!
犬山:こうしてわたしが本を出せる、ってことも、先人たちが勝ち取ってきた権利だと思うんです。取材を通して専門家の先生方の言葉に励まされることも多かったですし、自分もそのバトンをつなぐ役割なんだと思えるようになりました。でも、まだまだ課題は多い。世代的にも「わたしたちが頑張らねばならないぞ!」と襟を正しています。