ルッキズムからは逃れるのは難しい

滝乃:課題、多いですよね。たとえばルッキズムの問題は大きいですよね。犬山さんご自身もルッキズムに悩んだご経験があると書かれていました。

犬山:めちゃくちゃあります。直接けなされなくとも、例えば、隣にいる子が「目が大きくて可愛いね」と褒められて、自分はスルーされていると、「目は大きい方が良いんだ、自分は目が小さくてダメなんだ」と落ち込んだり。ダイエットに関する言葉なんかもそうです。

滝乃:わかります。

犬山:わたしはちょうどギャル全盛期、アムラーとかガングロギャルの世代なんですよ。ギャルって、わたしはすごくいいなと思っている部分もあって。あの時代って、男ウケを全然気にしないメイクとか、自分の中の「イケてる」感を重視してたんですよね。それが価値基準になっていて、すごく自己肯定感を強くしてました。ただ、その一方で「痩せてないとダメ」っていう価値観もすごく強くて。とくに「ガリガリじゃないと綺麗じゃない」みたいな圧はめちゃくちゃありました。今でもその「痩せ信仰」は強いなと感じます。

滝乃:それで、犬山さんもダイエットに悩まれたんですか?

犬山:はい。無理なダイエットを本当にたくさんしましたね。当時は知識もなかったので、「痩せるには食べなきゃいい」って単純に思ってしまって。そんなことしてたら生理が止まるし、リバウンドもするんです。でも、うまくいかないのは「わたしの意思が弱いからだ」って自分を責めたりしていました。

滝乃:それは辛かったですね。

犬山:無理なダイエットは摂食障害につながるおそれもあります。摂食障害は致死率も高く、危険な病気です。でも今の時代、SNSで「ガリガリこそ正義」みたいな価値観が簡単に目に入ってきて、それが「努力の証」としてもてはやされる。この状況で、女の子たちが育っていくのは本当に心配だなと思います。

見た目の問題は、心の問題とつながっている

滝乃:『女の子に生まれたこと、後悔してほしくないから』の中に「見た目を過剰に気にしてしまう人は、必ずと言っていいほど人間関係にも悩んでいる」と書かれていてハッとしました。まず「自分が愛されていない」と思い込んでしまっていて、そこから「痩せれば愛されるんじゃないか」「綺麗になれば認めてもらえるんじゃないか」って考える。そしてその理由を探して、見た目の問題に行きついてしまうんですね。

犬山:心の根っこにある不安や孤独を見落とさないようにしたいですよね。

滝乃:犬山さんは今、小学生のお子さんを育てられていますよね。このルッキズムに関して、どんな形でお子さんに伝えていますか?

犬山:今のところ、ルッキズムの構造みたいな難しい話はまだ伝えていないです。娘が本気で悩んだときに、「それはあなたが悪いんじゃなくて、社会の構造が問題なんだよ」って伝えようと思っています。ただ、普段から「自分のことも人のことも見た目でジャッジしないでほしい」という話はよくしています。例えば、「〇〇ちゃんは目が大きくて可愛いね」って誰かが言ったときには、スッと「どんな目の形でも素敵だよね」と声をかけるようにしています。テレビやYouTubeを見ていても、「足が細くて素敵」だとか「肌が白いから可愛い」みたいな価値観が出てくることが多いですよね。そういうときには、わたしはすぐに口を出して、「そうじゃないよね」って話をしています。

子どもはちゃんとわかってくれる

滝乃:娘さんもそういう考え方を自然と受け入れられるようになっていますか?

犬山:はい。娘も、小さい頃からそういう価値観を聞いて育ったので、今では誰かが「足が細いから綺麗」みたいな話をすると、「それっておかしいよね」と怒ることもあります。

滝乃:子どもの頃から「どんな体型でも素敵」という価値観を持てるのは、とても大切なことだと思います。

犬山:本当は、私自身が「どんな体型でも素敵だよね」と心から思えるように育ちたかったんです。本書の中で取材したプラスサイズモデルの吉野なおさんは、幼稚園のころに「デブ」って言われたそうです。そして、他の子のお母さんのひざの上に乗るゲームのときに、まだ幼稚園児の吉野さんはおしりを浮かせていたそうです……。未就学児の頃からもう、そう思わされる現状がある。これはぜんぜん他人事じゃないし、だれもそんな思いをするべきじゃないと思います。ただ……この先思春期がありますからね!

滝乃:思春期には、どうしてもルッキズムで傷つくことがあるでしょうね……。

犬山:「お母さんはあなたのこと可愛いって思うけど、それはお母さんだからでしょ」と言われる日が来る可能性は高いです。ルッキズムという構造はまだ確実に存在しますし、それで傷つくことも避けられないはず。それでも、「どんな自分でもいいんだ」という感覚を伝えていくことは大事だなと思っています。

※本稿は『女の子に生まれたこと、後悔してほしくないから』に関する書き下ろし対談記事です。