また、TIMSSでは、主に算数・数学と理科の学力を測定していますが、こちらはPISAよりも性差が出ていません。いくつかの調査年において、算数・数学では男子生徒のほうが女子生徒より高い得点となる傾向がありましたが、差が出ていない調査年のほうが多く、相対的に男子のほうが成績はいいものの、大きな性差があるとまでは言いがたいところです(*4)。
*4 瀬沼花子(2021)学校での算数・数学とジェンダー――研究と実践の進歩から学ぶ『学術の動向』 26巻(7号)22―29
理科についても、一部の調査年でのみ、男子の成績が良いことが報告されています。
このように、世界的な学力調査の結果を見ると、教科によって得点に性差があることがわかります。しかし、その差は必ずしも大きくはないと言えそうです。
約1000万人のデータによる
メタ分析結果は?
とはいえ、わずか数回の学力テストの成績によって、性差があるとかないとかいうのは早計です。本文でここまで見てきたような俯瞰的なデータについても取り上げてみましょう。
まず、国語にかかわるような能力のメタ分析を見てみます。女子の成績が良いとされるものです。この点に関してはいくつかメタ分析があるのですが、2000年以前のものは読解力や文章力にはほとんど性差がなく、わずかに女子の成績が良いことを示しています。
ただ、これらの古い分析には、女子の教育機会が十分に担保されていなかった時代のものも含まれているため、より新しいメタ分析を見る必要があります。2018年のメタ分析では、国語、読解、書きについて、アメリカの小学生から高校生の約1000万人のデータを対象に分析しました(*5)。
その結果、国語、読解、書き、いずれにおいても、女子の成績が良いことが示されています。特に、書きの性差は大きく、国語や読解の性差の倍程度もあったということです。性差は小学生の時にはそれほど大きくないのですが、中学生の時には大きくなっており、年齢とともに広がっていくことが示されています。
このような年齢差はここまで見てきたような性ホルモンや思春期のタイミングの始まり、および、自己効力感といわれる自信や苦手意識なども関係してくると考えられます。
*5 Petersen, J. (2018). Gender difference in verbal per-formance: A meta-analysis of United States state
performance assessments. Educational Psychology Review, 30, 1269-1281.