「女子と男子で発達の順序が違う」に根拠なし!トンデモ理論はなぜ生まれるのか写真はイメージです Photo:PIXTA

「男子は理数系が得意、女子は国語が得意」。一般的に言われている説だが、これに科学的な根拠はあるのか。そしてそもそも、脳の発達順序に性差はあるのか。世界的なデータをもとに、発達心理学者が解説する。本稿は、森口佑介『つくられる子どもの性差 「女脳」「男脳」は存在しない』(光文社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

「発達順序の性差」は
完全なる誤解

 筆者の専門が発達心理学であること、そして、数年前に発表した子どものジェンダーステレオタイプに関する学術論文が広く報道されたことから、筆者のもとには様々なメディアからの子どもの心の性差に関する取材や問い合わせがあります。

 社会的な意義が非常に大きいので、できる限り正確な情報をお伝えしたいと考えているのですが、取材の中でトンデモ話を聞かされることがあります。たとえば、2018年、大学の医学部入試で、女性受験生や浪人生が差別を受ける不正が発覚しました。広く報道されたことで、女子と男子で定員が異なることや合格ラインが異なることが問題視されるようになりました。

 その一環で受けた取材で、「ある教育関係者が女性と男性では脳の発達が異なるから女性と男性で区別するのは仕方がないというコメントをしているが、この点を専門的にどう考えるか」という質問を受けました。

 具体的には、「女子と男子の脳の発達には違いがある」「男子が抽象的な理解から言語の理解の順で脳が発達する、女子は、その逆の順序で発達する」「女子生徒は数学や理数系の抽象的な理解が、はじめのうちは男子に比べ、苦手になりやすい」などの考えを教育関係者が述べたということです。

 これらに科学的根拠はあるのでしょうか。こういうケースでは、「自身の経験や実践」を基に、独自の理論をつくり上げていることが多い印象です。科学的知見を踏まえると「女子と男子の脳の発達には違いがある」という点は、それ自体漠然としていて何を指しているかは不明ですが、まだ議論の余地があります。

 青年期において脳の発達に性差があるかは、大人の脳の性差同様決着がついていない問題ですが、脳の構造の発達には性差があるという研究もあります。ある大規模な研究では、男子のほうが青年期における脳の発達的変化が顕著である可能性が示されています。