特に、脳の各部位をつなぐ白質において、男子の変化が大きいことが示されています。ただし、このような脳の構造の違いが、行動や学力とどのように関係するかはまだよくわかっていません。

 また、最近の系統的レビューでも、研究手法や白質のどのような側面に注目するかによって結果は一貫しておらず、まだ青年期の脳の発達にどのような性差があるのか、結論を下すのは時期尚早のようです(*1)。

*1 Piekarski, D. J., Colich, N. L., & Ho, T. C. (2023). The effects of puberty and sex on adolescent white matter de-velopment: A systematic review. Developmental Cognitive Neuroscience, 60, 101214.

教師の偏った考えは
生徒の学力に影響を与える

「女子と男子の脳の発達には違いがある」はまだ理解できますが、「女子と男子で発達の順番が違う」という考えは、全くもって科学的根拠がありません。発達心理学の研究は19世紀末くらいからの歴史がありますが、性別によって発達の順序が異なるという理論は受け入れられていません。

 こうした教育関係者は、何らかの発達心理学の理論を曲解するか、自身の経験を基に独自の理論をつくり上げることが多いようです。たとえば、20世紀に活躍した著名な発達心理学者、ジャン・ピアジェの理論を勝手に改変したりしています。

 ピアジェの理論では発達は基本的には普遍的なものですし、そもそも現在ではピアジェの理論の主な部分は概ね間違っているというのが世界中の研究者の共通認識です。研究者以外の方がこのことをご存じないのは仕方がありませんし、十分に発信してこなかったという意味で研究者の責任でもあるので、我々も反省する必要があります。

 ただ、しっかりと勉強もせずにトンデモ理論を発信したり、そのような考えを持って教育にあたったりすることは、教育を受ける子どもにとっては有害でしかありません。

 事実、教師が性別に対して偏った考えを持つと、生徒の学力に影響があることが知られています。このことは特に算数や数学で顕著で、膨大な研究がなされています。とりわけ、教師が生徒の算数や数学に期待することには性別による違いがあり、その違いが子どもの算数・数学に対する態度や成績に影響を与える可能性があるのです。