芸能人や著名な経営者にも「サウナ好き」を公言する方が増え、また身近なビジネスパーソンで、精力的に仕事をこなすトップエリートと呼ばれる男女がこぞってサウナに通っています。なぜ、仕事ができる人は、サウナにハマるのでしょうか?
サウナを初めて科学的エビデンスに基づいて解説した話題の書「医者が教えるサウナの教科書」(加藤容崇著)より、最新研究に基づいたサウナの脳と体に与える効果と、最高に「ととのう」ための入り方を、本書から抜粋して紹介していきます。

【研究で判明】サウナが感覚を敏感にする理由と脳のメカニズムPhoto: Adobe Stock

シェフやソムリエも驚く!サウナが感覚を研ぎ澄ます秘密

シェフやソムリエなど、感覚の敏感さを求められる職業の人には、サウナーが多いようです。実際、サウナに入ると、味覚や触覚、嗅覚などの五感が敏感になります。
その理由は、本書のP32でも伝えたように、脳の右側の頭頂葉の一部が活性化するからです。

頭頂葉というのは、人間のセンサーにあたるところで、感覚を司っています。
たとえば、室内を移動する時、家具の位置と、自分の体との距離を正確に測らなくても、体をぶつけずに移動できると思います。それは、手や足など、自分の体がどこにあるかを、頭頂葉が察知してくれているからです。

だから、頭頂葉がダメージを受けると、目をつぶって服を着られなくなります。着衣失行と言うのですが、自分の体がどうなっているかわからないから、袖に腕を通せなくなるのです。

このように、頭頂葉は感覚を司っているとても大切な部分。それが、サウナに入ると活性化し、感覚が研ぎ澄まされることがわかったのです。

だから、サウナに入った後の食事(サウナ飯)は、とてもおいしく感じられます。薄味のものでも十分満足できるし、味の濃いものは、より濃く感じます。そのため、むしろとんこつラーメンのように濃厚なものは食べたくなくなります。自ずと健康的な食事になるので、体にもいいと思います。

ただし、少し細かい説明になりますが、今回行った研究によると、活性化していたのは味覚を感じる部分(味覚野)そのものではなく、頭頂連合野と呼ばれる部分でした。てっきり「味覚が敏感になるのだから、味覚野そのものが活性化しているのだろう」と思いきや、そうではなかったのです。

味覚野は頭頂葉の一部で、頭頂葉の下のほうに位置しています。頭頂連合野は、味覚野のもう少し上、頭頂葉の真ん中あたりにあります。
頭頂連合野というのは、体のセンサーからの情報や内的情報(記憶、感情など)を勘案して総合的に判断する場所です。たとえば、同じ食事でも、苦手な上司と食べるのと、仲のよい友達と食べるのでは、おいしさの度合いが変わりますよね。それは、頭頂連合野が、記憶や感情などの領域と連絡を取って、最終的にどういう感覚なのかを判断しているからです。

このように、サウナに入ることで感覚が敏感になることは確認されたものの、詳しいメカニズムについてはまだ解明すべき点が多くあります。今後も研究を続けていき、結果をみなさんにシェアしていきたいと思っています。

感覚が研ぎ澄まされてゾーンに入る

味覚以外に私が強く感じる感覚の変化は、触覚や聴覚です。まず、空気の肌触りが格段によくなります。
たとえば、梅雨時にサウナに行くと、向かっている時は空気がジメジメしていて気持ちが悪いのですが、出た後は、ハワイでアラモアナショッピングセンターの前を歩いているかのようにさわやかに感じることがあります。交通量の多い空気が悪いところでも「いい風が吹いてるなぁ」と。Tシャツに袖を通した時も心地がいいです。

これは、サウナに入ったことで皮膚表面の血管や毛穴が締まったことも関係しているかもしれません。

外気浴をしている時に、室外機の音が突然気になることもあります。いつもは全然気にならないような音なのに、「なんかうるさいなぁ。室外機の音か」と。
これは、ゾーン(心理学用語で極度の集中状態)に近い状態なのではないかと思います。全体としてはリラックスしているのに、必要な部分だけが上がっているようなイメージです。

この、ゾーンのような状態は、私の場合は翌朝まで持続します。ただし、どれくらい持続するかは、その後の自分の行動にかなり依存すると思います。サウナ後にアルコールを飲んだら崩れるでしょうし、仕事をして極度に集中した場合は、仕事が終了するのに伴ってゾーンを脱するかもしれません。

ちなみに、感覚が研ぎ澄まされるというと、痛覚も鋭くなるのかと思うかもしれませんが、それは心配ないと思います。痛みを感じるメカニズムはとても複雑で、恐怖や記憶などに依存します。たとえば、子どもが注射をされる場合、「イヤだ、痛い痛い!」と泣き叫んでいる時に針を刺されるのと、気が付いていない時に刺されるのとでは、前者のほうが痛みを強く感じます。「痛い」というシグナル自体は等しく受け取りますが、記憶や、そのときの感情なども含めて痛みを感じるからです。

また、サウナに入った後はα波が正常化し、非常にリラックスした状態にあるため、ネガティブな外的情報には鈍感になりやすいと考えられます。そのため、サウナに入ることで、痛みに対して鈍感になると思われます。

*本記事は、「医者が教えるサウナの教科書」から、抜粋・編集したものです。