「“仕事の裁量がほしい”と言うだけの人は考えが甘いです」
そう語るのは、転職エージェント「キープレイヤーズ」代表の高野秀敏さん。1.1万人以上のキャリア相談、4000社以上の採用支援の経験を持つヘッドハンターであり、「現場」と「経営者」の両方の視点で、「圧倒的に活躍する人たち」と関わってきました。
その高野さんがベンチャー流の「結果を出す働き方」をまとめた書籍『ベンチャーの作法』が刊行。発売たちまち重版し、“きれいごと”抜きの仕事論に、社員からは「ベンチャーにかぎらず全ての組織で役立つ!」、経営者からは「よくぞここまで書いてくれた!」と、SNSでも多数の感想が投稿されるなど異例の反響となっています。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「仕事の裁量を得ることの意味」についてお伝えします。
裁量とともに得る「代償」の重さ
裁量を求める人に、問いたいことがあります。
その代償を知っているでしょうか?
ベンチャーでは一度信頼を勝ち取ると、びっくりするくらいさまざまな仕事を任せられるようになります。
裁量を喜ぶどころか「これ以上は無理です」と断らなくてはいけなくなります。
結果への責任も持つことになり、ハンパないプレッシャーを受けることにも。
そして経営者から直々に指示や確認が入り、「どうなった?」と聞かれます。
それまで経営者と会話することはおろか、入社式でしか顔を見る機会がないような企業から転職してきた人は、この状況にかなり驚くようです。
「え? 丸投げ? 本当に自分で何でも考えてやるの?」と。
経営者としては詰め寄っている感覚はなくても、進捗を確認された人は大きなストレスを感じてしまいます。
ベンチャー1年目の忘れられない「丸投げ」
インテリジェンスに新卒で入社して1年目の頃、ベンチャーキャピタルが注目されていました。
そこでベンチャーキャピタルと合同でイベントをおこなったらどうかと上司に提案したところ、「それなら、全部自分でやってみろ」と丸投げされました。
そして企画したのが、成長するベンチャーの見分け方を伝える「ミレニアムベンチャーセミナー」です。
イベントの内容を考えたり、日経新聞に広告を出したりと、本当にいろんなことを1人でやりました。大変でしたが、その分、得たものもありました。
丸投げの果てに得た「忘れられない経験」
その来場者に、当時世界を席巻していた外資系IT企業で、最速で昇格していたセールスとマーケティングのプロの方がいました。
それが縁となって、その方の部下候補となる人を何名か紹介させてもらうことに。
そうこうするうちに、その方ご自身から転職の希望を受けました。
私は悩んだ結果、自社、つまりインテリジェンスを紹介しました。そして役員や社長に紹介して、幹部人材として入社してもらいました。
その転職は彼にとって良い条件で決まったようで、なんと彼は、自分が当時つけていた高級腕時計を私にプレゼントしてくれました。
彼はこう言いました。
「今回の転職を機に、私は自分でもっと良い時計を買う。これは自分が若い時代から大事にしていた時計なので、高野さんもこれをつけて頑張れ!」
当時の私は安物の時計しか持っていなかったので、ありがたく頂戴し、涙しました。
その時計は今でも大切に飾ってあります。
きっかけは丸投げされたイベントでしたが、必死に頑張ったことで、忘れられない経験へとつながりました。
「丸投げ」される覚悟はあるか?
仕事の裁量を得ると、ときには「丸投げ」されるリスクもあります。
そういう職場では、みんなも同じような状況です。さまざまな仕事を丸投げされているわけですから、他の人にかまっている余裕はありません。
同僚や先輩に相談しようにも、あまり親身には相談に乗ってもらえないのです。
裁量を得たら最後、「すべて自分でなんとかしないといけない」のです。
この現実を理解せずに、ただ「裁量がほしい」と言うだけの人は、考えが甘いと言われても仕方ありません。
ですが、「なんとかした」先で得られる、かけがえのない経験もあります。
裁量を得るからには、かならずやりとげる。
その覚悟を持てる人だけが、「裁量のある仕事」を求めるべきでしょう。
(本稿は、書籍『ベンチャーの作法』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)