「『しかし』という接続詞の後ろに重要な文がある、というようなテクニックばかりに頼っていると、本当の読解力は身につきません。安易にテクニックに逃げないようにしましょう」
TBS日曜劇場「御上先生」(主演・松坂桃李)第1話で、吉岡里帆演じる是枝文香先生はそんな指導をしていました。しかしその発言に反して、東大志望の多い生徒たちはテクニックに頼るような勉強ばかりをしている、というシーンがあります。
これはどの学校でも起こっていることであり、テクニックを使った勉強を指導して、それでテストでいい点数を取って、いい大学に入学して学歴を得て、上級国民予備軍になる、という今の教育には問題点があるのではないか、という批判の声もあります。
テクニックを使って指導することは良いことなのか? 悪いことなのか? 今回は、『5科目50年分10000問を分析した東大生のテストテクニック大全』(ダイヤモンド社)の著者であり、「御上先生」の教育監修をつとめる西岡壱誠氏が、関西の名門校であり東大合格者数ランキング5位の西大和学園の国語科教員で『一度読んだら絶対に忘れない国語の教科書』(SBクリエイティブ)の著者でもある辻孝宗先生にお話しを伺いました。
![「なんのために勉強するの?」東大合格者続出の名門校教師が語る納得の答えとは?](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/3/c/650/img_b60aa4ab0666f2d706446135851d863589565.jpg)
「テクニック」は思考法の一環
――今回のドラマ『御上先生』では、国語の先生がテクニックを教えることを否定するシーンがあります。多くの学校でテクニックを使った指導は主流になっているわけですが、これについて先生はどのようにお考えですか?
辻孝宗先生(以下、辻):テクニックはよく否定されがちなものですが、自分は『ものを考える上での武器になる』という点において、テクニックは教育効果があるものなのではないかと考えています。ほとんどのテクニックは、それを理解すればそれで解ける、というものではありません。
なぜテクニックを教えるかといえば、それが思考法の一環だからです。
――「思考法の一環」という点について、詳しくお聞かせください。
辻:たとえば、国語の入試問題を解く上では、『対立構造を明らかにする』というテクニックが有効であり、私も国語の問題を解くためのテクニックとしてよく教えています。
でもこれは、単純にこれをすればテストでいい点数が取れるようになる、という類のものというよりも、ものを考えるときの武器になると思うんですよね。
登場人物の心情や、1つの主張は、その対立構造を明らかにしないと、より深く理解できません。「対立構造を明らかにする」というのは、国語の文章問題を突破するテクニックというより、物事を深く考えるときに使える思考法に近いと思います。文章を読むときだけでなく、人の話を理解するときにも応用できます。
――なるほど。テクニックと言いつつ、思考の型をインストールしているようなものである、ということでしょうか。
辻:そうですね、『テクニックは型である』ということなのだと思います。『まなぶ(=学ぶ)』というのは、『まねぶ(=真似ぶ)』が語源であるという説があります。つまり、勉強とは『真似』から始まるものである、ということです。
勉強とは、昔から培われている技術を継承することにほかなりません。数学であれば難しい問題をこの公式を使えば解けるようになる、というのは公式という昔から培われているテクニックを真似して問題を解くということです。この場合のテクニックとは、『型』と言い換えて差し支えないものでしょう。
――なるほど。読解法も『型』ですもんね。
辻:私は、『古文の文章は、一度で理解できるわけがないから、何度も読むことを前提にして、最初と最後を読んで方向性を推測しながら読む』という教え方をしています。
これもテクニックなわけですが、実際、昔の人たちはおそらく、この読み方と同じように、夜な夜な引っ張り出しては、何回も読む中で解釈していたのではないかと思うわけです。
それはつまり、テクニックという言い方をしているけれど、本質的な読み方に近いのではないか、と。