あなたの部下はこの1年、どんな仕事をしていましたか? 最後に一対一で話をしたのはいつでしょうか? 上長と部下が一対一で行う「1on1ミーティング」は今や多くの職場で“当たり前”となりました。ヤフーが実践してきたこの対話手法は、単なる業務報告や評価面談とは異なり、部下の成長を支援し、信頼関係を築くためのものです。本稿では、2017年に発売されて以降、最も売れ続けている1on1の入門書『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』(本間浩輔・著)から一部を抜粋・再編集して、1on1が持つ本当の意味と効果を解説し、成功するためのポイントを探ります。

「この部下、どう接すれば…」→なんか苦手な部下が職場を救ってくれるかもしれない意外な理由Photo: Adobe Stock

必要なのは「小さなリーダーシップ」

上長は部下を選べるが、部下は上長を選ぶことができない

 今、苦手な上長の関係性に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

 しかし、上長側だって部下を選べないことも多いのが事実。

 その結果、上長にとって、コミュニケーションをとりにくい、さらに言えば「苦手な部下」がいることも事実です。

 私は、これまで1万回を超える回数の1on1を行ってきましたが、「苦手な部下」との関係をなんとかしたいという管理職の悩みを聞くことは珍しくありませんでした。

 経営層と異なり、職場の最前線で働く管理職に必要なのは、毎日顔を合わせる部下と円滑なコミュニケーション(意思疎通)を行うための、「小さなリーダーシップ」です。

 たとえば、私たちが普段イメージするリーダーシップとは、経営者や企業の幹部など、大きな組織や多数の部下を率いるための力ではないでしょうか。

 そこで想定されているリーダーはみんなのヒーローだし、ときとしてカリスマであることもあります。このようなリーダーシップのあり方を私は「大きなリーダーシップ」と名付けました。

 しかし、中間管理職のほとんどは、数人から多くても10人程度の部下をマネジメントしています。このため、多人数ではなく少人数に合わせたリーダーシップのあり方が必要なはずです。

 大きなリーダーシップでは、多人数の心を動かすような、力強いメッセージを伝えるスピーチの能力は不可欠です。

 一方で小さなリーダーシップは、メッセージを伝える能力よりも、「しっかりと聞く力」が重要になってきます。

 小さなリーダーシップにおいては、部下とのコミュニケーションがうまくいくかどうかがチームの成果に直結します。特に、「苦手な部下」といかに健全な関係を維持するかは、「小さなリーダーシップ」の要諦とも言えます。

 もともと仲がよかったり、性格が合ったりする部下なら、お茶をしたり、飲みに行ったりという具合に、意識しなくてもコミュニケーションの頻度は保たれます。しかし、性格が合わない部下や、苦手な部下の場合はそうはいきません

「苦手な部下」こそ1on1の頻度を保つ

 私は、苦手な部下こそ「1on1先生」だと考えています。

 苦手な部下と高頻度で1on1を行うことにより、その人の意外な一面が発見できます。

 実際に1on1をやってみないと想像しにくいかもしれませんが、結果的に1on1の場以外での会話(スモールトーク)の機会が増えて、トータルのコミュニケーション回数が増えることもあります。

 1on1の場で、共通の趣味があることに気づいたり、部下の「推し」を知り、その話をしたりするという例はよく聞きます。

 かつては「タバコ部屋のコミュニケーション」というものがありました。

 タバコを喫う人は昼休みや会議の合間など、頻繁に喫煙所で顔を合わせる。それで、どんどんコミュニケーションの頻度が上がっていきます

 やはりここでも注目したいのは、コミュニケーションの「内容」ではなく「頻度」です。
 1on1を行うときは「毎週月曜の13時から30分」など、時間を決めておくのが理想です。

『増補改訂版 ヤフーの1on1』では、部下との対話に必要なコミュニケーション技法について体系的かつ実践的に学ぶことができます。

(本稿は、2017年に発売された『ヤフーの1on1』を改訂した『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下の成長させるコミュニケーションの技法』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です。ヤフー株式会社(当時)は現在LINEヤフー株式会社に社名を変更しましたが、本文中では刊行当時の「ヤフー」表記としております)

本間浩輔(ほんま・こうすけ)
・パーソル総合研究所取締役会長
・朝日新聞社取締役(社外)
・環太平洋大学教授 ほか
1968年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、野村総合研究所に入社。2000年スポーツナビの創業に参画。同社がヤフーに傘下入りしたあと、人事担当執行役員、取締役常務執行役員(コーポレート管掌)、Zホールディングス執行役員、Zホールディングスシニアアドバイザーを経て、2024年4月に独立。企業の人材育成や1on1の導入指導に携わる。立教大学大学院経営学専攻リーダーシップ開発コース客員教授、公益財団法人スポーツヒューマンキャピタル代表理事。神戸大学MBA、筑波大学大学院教育学専修(カウンセリング専攻)、同大学院体育学研究科(体育方法学)修了。著書に『1on1ミーティング 「対話の質」が組織の強さを決める』(吉澤幸太氏との共著、ダイヤモンド社)、『会社の中はジレンマだらけ 現場マネジャー「決断」のトレーニング』(中原淳・立教大学教授との共著、光文社新書)、『残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方』(光文社新書)がある。